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「ねえ、梓先輩」
「ん?」
「こんな深夜に、俺を頼って、電話してきてくれて……ありがとうね」
「……え?」
柚希くんが柔らかくそう言った時、私は少しだけ固まる。
固まってから、また泣きそうになる。
どうして……柚希くんは、迷惑をかけている私に、そんなことを言ってくれるんだろう。
「ねえ、梓先輩。待っててね」
優しい柚希くんの声に、私は涙をこらえる。
それでもあふれてしまった一粒を拭い、うなずく。
「……待ってる」
柚希くんとの電話は、ぶつ切りじゃなくて、そっと柔らかく切れた。
「……ありがとう、柚希くん」
暗闇の部屋でつぶやく、午後三時過ぎ。
私は涙を拭いて、窓に目を向け、はらはらと降る雪を見つめる。
勢いで電話をかけ、自分の心を満たすために利用しようとした柚希くんは、暗闇の中にいる私を迷惑なんて思わずに、手を差し出してくれようとしている。
柚希くんは今までの痛みを消し去る光を、今から優しく届けに来てくれる。
そんな未来への温かな予感を、この時、私は確かに感じていた。
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