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3.消えない光
「荒野の向こうの山に死なない男が住んでいるの。その人は魔法の光があった頃から生きてるそうよ。」
別れ際に教えてくれた彼女の目には、軽蔑と憐れみが入り交じっていた。
理解されないことは分かっていた。この世界の人は皆、神さまに洗脳されている。そこから救い出すためにも魔法の光が必要なのだ。
だけど、実際に目の当たりにすると想像の何倍も堪えた。
小さい頃に一度だけ両親にこの話をしたことがある。そのときは罰当たりなことを言うんじゃないと酷く叱られたのだ。
それから誰にも言わずにここまで来たが、まさかあんな目で見られるなんて。
だがシンは少しも諦めていなかった。
両親もメイも仕方がないのだ。神さまを信じることしかできないのだから。
彼らを救わなければならない。一層強い思いを胸にシンは荒野を進んだ。
3日近く歩いただろうか。
メイに示された山は、近いように見えて遠く、歩いても歩いてもたどり着けそうにはなかった。船でくすねた食料もほとんど底をついて、水ももう残ってはいなかった。
死ぬかもしれない。
ここに来てシンの頭はそれでいっぱいだった。
魔法の光を見つける前に自分が死んでしまっては意味が無い。だから、諦めてはいけない。
そう自分を鼓舞しても、焦燥感が胸を焼く。
軽い気持ちで家を出たつもりはない。シンは自分が魔法の光を手にすることを疑っていなかった。幸せになって欲しい人がいるのだ。両親のいる村に帰らなければならないのだ。
だけど。
ああ、僕は何の為に…。
風が吹いて、松明の火が消えた。
町から遠く離れた荒野に他の明かりは一つもない。
上下も左右も分からなくなるほどの暗闇がシンの体を包み込む。
自分の目が開いているのか閉じているのか。
足が地面に着いているのかいないのか。
自分が生きているのか死んでいるのか。
手探りで鞄の中を探す。
どれだけかき回しても火種がない。あれが最後の火種だったのだ。
暗闇の中で風のなく音だけが響く。
泣きそうなほど怖いのに涙は出てこなかった。
生暖かい暗闇が、肺いっぱいに広がって息ができなくなる。
獣の唸り声が聞こえた気がした。
きっと火が消えたから、やってきたのだ。
僕はここで死ぬ。獣に喰われて。
がたがたと歯が鳴る。
僕は魔法の光を見つけるのだ。見つけるために、ここにいるのだ。
何もないままこんなところで死んでしまうなんて、そんなことあるわけないだろう。
そんな理不尽な話…。
獣の足音が一歩一歩近づいてくる。
逃げなきゃいけないことは分かっているのに、足は全く言うことをきかない。
為す術もないまま、獣の駆け出す音がして、シンは強く目をつぶった。
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