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男の声に合わせて、筒の片側から見たことのない光が溢れていた。
それは、初めて見るその光は、炎なんかとは比べものにならないぐらいに明るく、正しく魔法だった。
触れてごらんと言う男の声に促されて恐る恐る手を伸ばす。
揺らめくことのない光は、暖かくも冷たくもなくて、間違いなく伝え聞いた魔法の光だった。
これがあれば、僕たちは暗闇で襲ってくる獣に怯えることなく、安心して暮らすことができる。
この光があれば、炎に家が焼かれてしまうこともない。
きっと食べ物だって沢山できる。
今も獣に警戒しながら農作業をしているであろう父と母の顔が浮かんだ。
彼らは怯えながら、神に祈るしかない。だけどこれがあれば、助けてくれない神なんてもう縋らなくて良いのだ。
「これが欲しい。」
シンは光に目を奪われたままに、呟いた。
「この光によって、君たちが滅んでしまったとしても?」
「滅びないよ。神さまが僕たちを追い詰めるのはこの光が怖いからだ。今度は奪わせない、立ち向かってみせる。」
「確かに君たちは神の手によって、その力を奪われた。だけど、奪われなければ、君たちは滅んでいた。」
白く真っ直ぐな光が男の顔を鮮明に映し出す。
男はどこか挑戦的な目でシンを見ていた。
「どういうこと?神が僕たちを助けたって言いたいの?神さまのせいで、僕らはこんなことになっているのに?」
「助けたつもりはないけど、結果的に君たちは滅びずにいる。文明は消えてしまったけどね。」
正直なところシンは男の言っていることなどどうでもよかった。何と言われようとその光が必要なのだ。
「これが欲しい。」
もう一度、男の目を半ば睨み付けるように口にした。
そのシンの目を真っ直ぐに見返すと、男は残念そうにため息をついた。
「それはできない。魔法だからね。」
もういいかいと、男は魔法の光を消し、コートに下にそれをしまった。
現れた時と同じように魔法の光は、一声で消えてしまった。
「あれが君たちを滅びに追いやった光だ。満足したかな。」
男は諭すように言った。
だが、あれは僕らを救う光でもある。
それをみすみす見逃すわけにはいかない。
「それじゃあ。君も気をつけて帰るんだ。」
男が背を向けた瞬間にシンは腰のナイフに手を当てた。
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