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第5話
「ねぇ、そんなだとさ、好きな人ができても振り向いて貰えないよ。」
「そんなやつこの先一生出来ねぇよ。」
そう言って、城崎は私の顔をじっと見つめる。
「さら。」
そう一言、私の名前を呼ぶとその場を去ってしまった。
…なに?さっきの?顔が熱くなり、心臓の音も早くなる。なに。これ。好きな人に名前呼ばれるのってこんなにドキドキするんだ。
私は五月蝿い心臓を抑えた。
「やっと帰ってきた。」
1時間目が終わり、休み時間になったのに合わせて、私は教室へ戻った。隆一がすぐさま来てくれて、私は心配かけてごめんね。と笑顔で返す。
「全然。いいよ。」
そう言って笑う隆一。ほんとに、優しい。
それから、私は毎日のように城崎と話し、諭そうとしていた。
「ねぇ、城崎。」
「話しかけんな。」
「さら、ほっとこう。城崎がああ言ってるんだし。ね?」
「…」
隆一が言いたいこともわかる。でも、私はめげずに城崎の元へ向かう。
勉強を口実にしたり、中学の時から好きなジュースを間違えて買ってしまったかのようにして接触を測ったりしていた。
そうしているうちに、城崎も昔のようにとは行かないが、前よりも話してくれるようになった。昨日見たテレビ番組の話や、そう言う他愛ない話もしてくれるようになった。
そんなある日、いつものようにテレビの感想を話しているときだった。
「今見てるドラマでさ、相手役の子が、いくらモテたって本当に好きな人から好かれなきゃ、意味ないんだって言った時、私すっごいキュンとした!」
「…そう。」
突然城崎は不機嫌になり、会話の途中だと言うのに、スマホを見るなり、どこかへ行ってしまった。
もう少しだと思ったんだけどな。それからの午後の授業、城崎はどこかへ行ったまま終礼が終わっても帰っては来なかった。
「さら、帰ろう。」
「うん。」
私はいつものように、隆一と帰ることになった。
手を繋ぎ、駅に入る。改札の近くまで送って貰うため、いつものように歩いていた時だった。隆一は突然私の手を離し、立ち止まった。
「隆一?どうしたの?」
私は俯いている隆一の元へ戻り、顔を覗き込んだ。隆一はゆっくり顔を上げ、私の方を見ると一言、
「別れよう。」
そう告げた。
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