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47.その聖女、ふっかける。
アルがいなくなってしばらく経った頃、王都から私の元に書面が届いた。
『聖女セリシア・ノートンの追放を解く。直ちに帰還せよ』
と書かれていた。
呼び戻す理由はもちろん、謝罪の言葉すらないその身勝手な呼び出しを私は当然の如く無視した。
私が王都からの召喚状を無視して早3週間。
王都からわざわざ使者がやってきたのは、私がギルドで冒険者相手に傷薬を売り捌いている時だった。
「セリシア様、王都からなんだかとぉーっても態度の気に食わない横柄な使者様たちが来てますが、どうされます? 追い出しましょうかぁ?」
「いいよ、私が自分で追い返すわ」
仕方なく立ち上がる私の後ろに、アスマをはじめとした冒険者達が当たり前のように付き従う。
「セリシアのお嬢に横柄な態度、だと?」
「お嬢、シメますか? 加勢しますよ」
「シアお嬢、むしろ俺らに出させてください」
「待って。とりあえず待って。話ややこしくなるから!」
なんだってうちの子たちはこうも血気盛んで、人の話を聞かないのかと苦笑しながら、とりあえず使者とやらに会ってみる。
「聖女セリシア。何故召喚に応じない! 貴様、聖女としての義務を怠るかっ!!」
開口一番にそう怒鳴られ、流石の私もイラッとする。
「まずその"聖女"ってなんなの? 私の追放理由、聖女を騙った偽物だからのはずでしょ? 召喚義務があるのは今王都で王子が隣に侍らせてるあの美人さんでしょ」
穏便に話し合いに応じてあげようと思った優しさは秒で消え、王子様に直々に頂いた"聖女に非ず"の証明書を使者に叩きつける。
「王都であの日の追放劇知らない人いないでしょ。あれだけギャラリーいたんだし、ギルドも教会も承認済み。と、言うわけで私聖女じゃないんで、義務もないし、帰りません」
お帰りはアチラです。と出口を指さした私に向かってまだ何かを叫んでいたので、私を崇拝している冒険者達が横柄な使者達を抱え上げ、そのままラスティから叩き出してしまった。
「セリシア様、何やら面倒くさい事に巻き込まれてますねぇ。アル様はいずこに行かれてしまったのです?」
こういう時こそ過保護を発揮して欲しいのですが、というシェイナに事情を説明するわけにもいかないので、
「まぁ、アルにはアルの事情があるのよ」
と肩をすくめた。
次に私の元に届かられたのは召喚に応じなければ私の出身の孤児院やラスティを脅かすような事が書かれた脅迫状だった。
「セリシア様、何されているんです?」
「謝罪する気ゼロのラブレターが届いたから、お礼参りしようと思って」
目には目を、歯には歯を、脅迫状には脅迫状を。
「ふふ、それっぽくできているかしら? 初めて書いたから照れちゃうわね」
「セリシア様、すごく生き生きしてますね」
「だって、人生上で"この国はすでに包囲した"なんて壮大な脅し文句書く日が来るなんて想定してなかったし」
相変わらずのやり口に呆れながら、私は張り直した結界を全て解除する旨を通達した。
編むのは大変でも作った本人なら壊すのは一瞬だ。
罪人として連れて行こうとした瞬間、解くつもりである事とそして今は魔力が枯渇しているため二度と張り直せないし、張るつもりもない事も併せて明記した。
その次に私に届けられたのは、私の元婚約者である王子の結婚のお知らせだった。
「あら、王子結婚したのね。幸せそう」
全くなんの未練もない、なんなら数回しか顔も合わせてない上に若干顔を忘れかけていた王子と新聖女様の結婚の絵姿に、
『恩赦をやる。側妃に取り立ててやろう』
などと王子直々の上から目線なメッセージが添えられていたので、不良債権でしかない王子との結婚なんて死んでもお断りとそれはそれは丁寧な口調で懇切丁寧に嫌味を織り交ぜたお返事をしたためた。
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