6.その聖女、責任を取る。

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「ケガも治ったみたいだし、ご飯食べ終わったら出て行ってくれる? こう見えても私、スローライフの準備に忙しいのよ」  スローライフを送るためにガツガツ働いているってどうなのよ、と思わなくはないが、実際やる事が山積みでとても忙しい。 「……スローライフって、何をするの?」  私にお礼を言って素直にパンがゆを受け取った少年は、私にそう尋ねる。 「んーとりあえずこの土地で作物育てられるようにしたいし、酪農もしたい。作物が育てば地産地消しつつ、他領と取引できるようにしたい、かなぁ。そのためには、作物が育つ環境の整備と労働力の確保とか、あとはやっぱり潤沢な投資資金が必要だし……魔獣でも狩るかダンジョン潜るかって感じで私は忙しいから他に構っている暇ないの。OK?」 「それ、全然スローじゃなくない?」  それは、全部ひとりでできるの? と紅茶色の目でじっと見つめられ、不覚にも私はたじろぐ。 「い、今はね! 始めたばかりだもの。軌道に乗れば人を雇ってスローライフになるはずなの!! ここから先の人生私は働かずに怠けて、ダラダラ生きて行くんだから」  今まで過重労働なくらい働いたんだもの。もうそんな生活嫌だ。  略奪するのも搾取されるのも嫌だ。  私はただ心穏やかに過ごしたい。そう主張する私の言葉を聞いて、少年は少し考えたあと、 「なんでもします。だから、俺をここに置いてください」  と頭を下げた。 「いや、うち子ども養う余裕ないし。それに」 「今の状態だと追い出されても帰れないんだ。先王の崩御で、今魔ノ国の情勢が非常に悪くて」  私が断り切る前に、悲しげに目を伏せてそう言った。おっと、なんかめちゃくちゃ断り辛い事情が出てきたぞ。 「あなたが聖女様だったら、怖くて頼めないんだけど、俺結構役に立てると思うんだ。読み書き計算できるし、自分で言うのもなんだけど顔が良いから接客とか向いてるし」  うん、確かに顔はいい。齢10歳くらいの美少年。魔族であることを隠して接客とかさせたら、固定ファンができそうだ。  でも気になる点はそこではない。 「……聖女だったら、マズイの?」 「知ってる? 魔王を勇者が倒す傍らで光魔法を駆使して魔ノ国の猛者を軒並み弱体化させて討ち取った聖女様がいるんだって。魔ノ国ではむしろ聖女様の方が恐れられてるんだ」 「へーそうなんだ……」  勇者より恐れられる聖女様。私、そんなにヤバいのか。  そしてこの子が路頭に迷った原因って間接的に私かと良心がズキズキ痛み出す。 「でも、光属性の魔力が強くてもあなたは聖女じゃないんでしょ? 助けてくれたし」 「……ええ、もちろんよ。聖女じゃないわ」  今はね。と心の中で付け足す。 「親は死んだし、行くあてもない。当面は住食確保できればそれで充分だし、ここに置いてください」  そう言って、少年は再度頭を下げた。  うーん、悠々自適なスローライフ計画だったんだけど、間接的とは言え私のせいで行き場をなくした少年を放り出して野垂れ死にされても寝覚めが悪い。  確かに今は猫の手も借りたいくらい忙しいしなとため息をついた私は仕方なく腹を決める。 「人間を絶対襲わないこと。襲ったら討伐するから。あと、働かないなら叩き出すから」  しぶしぶ了承した私にぱぁーと表情を緩めて笑った少年は、とても嬉しそうにお礼をのべた。 「私はセリシア。シアでいいわ。ところで、君名前は?」 「……アル。ただのアル」  名乗るまでの少しの間が気になったけれど、追求はしなかった。聞かれたくないことは誰にでもあるから。  こうして私とアルの共同生活が始まったのだった。
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