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久しぶりに見た王都は、相変わらず騒がしく、夜だと言うのに明かりが消えない。
「アル、連日悪いわね」
「別に連れてくるくらいはわけないよ。シアの魔力使ってるし」
私はアルに頼んで国内の要所要所気になっていた箇所に連れて行ってもらい、連日強固な結界を張り続けていた。
私は両手を組んで魔法を詠唱し、結界を編む。
「見事なもんだね」
私が編んだ新しい結界を見上げてアルはそう言う。
「一応本職だもん。前は過重労働のせいで魔力が足らなかったけど、ラスティに来てからずっとアルに甘やかされて魔力余ってるから。私の力を削るにはちょうどいいでしょ?」
私は自分の指先を見つめて魔力の流れを感じる。理想は、一回致命傷を避けるための防御と回復魔法がかかる程度だから、もう少し余裕がありそうだ。
「魔力を消費するなら他にも使い道あっただろうに、ヒトのために使うあたりがシアらしい」
そう言ったアルの顔を見ながら、
「ヒトのため、というよりコレは私のためよ」
王宮の方角を眺めて私はため息をつく。また都合のいいモノの様に扱われるのはごめんだ。
「聖女を追放したり、取り戻そうとしたり、勝手よね。でももう、働いてなんかあげない」
捨てられて正常な思考を取り戻した私は聖女としてこの国に反旗を翻す。これはそのための準備。
「ラウル様の話を聞いて、聖女がいなくなっても、他の人がメンテナンスしていけるような結界を編めればいいなぁって、思って。誰でもできるなら、聖女なんて不要だろうし」
使い捨ての聖女なんか、いなくなればいいと思う。
そして、他の誰かも私みたいに頑張りすぎて潰れることがないように、願いを込める。
この結界がそんなものとして遺ることを祈っている。
そう話した私にアルは、シアらしいねと同意してくれた。
「せっかくだし、孤児院覗いていく?」
帰りに寄ろうかと言ってくれたアルの提案に少し悩んだけれど、私は首を横にふる。
先生も忙しいだろうし、一応お忍びなので誰かの目に止まると困る。
「んーいいや。それはまたの機会で」
私は魔法を発動させ、伝令蝶を2匹出す。一つはラウルに、一つはノエルに向けて。
ラウルには新しい結界の維持の仕方をノエルにはたまにラスティのギルドに顔を出す事をそれぞれ蝶に乗せて飛ばす。
万が一の時の事を考えてお礼も述べておこうかととも思ったが、それは次回直接会えた時の機会にとっておくことにした。
「帰ろうか、私達のおうちに」
これで本当に私には王都の地に用がなくなったけれど、聖女として過ごしたこの場所に寂寥感も未練もなく、私の気持ちはもうラスティに向いていた。
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