44.その聖女、準備を整える。

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 今夜は満月という日の夜、 「これで全部達成っ!」  私は満月までにやってしまいたかったリストの最後の項目に線を引く。  やるだけの事は全部やったわと私は机に突っ伏してぐでる。  久しぶりの聖女としてのフル活動は大変だったけれど、いやいややらされた仕事ではなかったから思いの外充実していた。  初めて聖女として立った時と同じ"誰かの役に立てれば"という純粋な気持ちでいられたことが何より嬉しかった。 「シア、本当に良かったの? こんなこっそり勝手にいろいろやっても、きっと誰もシアのおかげだなんて思わないし、感謝もされないのに」  お疲れ様と私の前にココアを置いてくれたアルがそう尋ねる。 『シア、いいの。これでいいの。シアは思う通りに生きていいのよ』  お礼を言ってココアを受け取った私は甘いココアを一口飲んで、母の言葉を思い出しながら私は言葉を紡ぐ。 「いいの。これでいいのよ」  私の欲しいものは、私を讃える賞賛や聖女としての名誉じゃない。 「誰に感謝されなくてもいいの。アルだけ知っていてくれたら十分よ」  消化したリストを丁寧に折りたたんで、記録に挟む。コレが、多分私の聖女としての最後の仕事。いつか、振り返る日が来たら見返してみたいなと未来を思ってそっと撫でた。 「アル、今日がどんな結果になったとしても、私は後悔しないわ」  万全は尽くした。だけど解呪が上手く行かなかったら、死神に狩られた私は目を覚さないかもしれない。 「私はアルの事が大好きだよ」  解呪が上手くいって、私が目を覚ましたとしても、きっと道は別れるんだろう。アルには帰る場所とやるべき事が待っている。 「どこにいても、アルの事想ってるから。アルも満月の夜だけでも思い出してくれたら嬉しいな」  使い果たした魔力は、直ぐには元に戻らないだろうけれど、また聖女の力が使えるようになって、自分の身が守れるようになったら、今度は私がアルに会いに行こう。  満月の夜にでも、こっそりと。 「さぁ、解呪をはじめましょうか?」  ココアを飲み干した私は黒い羽織りを取り出して、アルにそう笑いかけた。
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