46.その聖女、未来を誓う。

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46.その聖女、未来を誓う。

 アルが魔ノ国に帰って行ったのは、次の新月の夜だった。  そして解呪したあの夜から1年経った現在、私は魔ノ国の王城でクロードと言い争いをしていた。 「だ・か・ら! やり過ぎなんだって、何回言えば分かるんだよ。なんで聖女はこうも物騒なんだ」 「向かってくれば薙ぎ倒すのは正当防衛でしょ!? 一般人には手だしてないもん」 「もん、じゃねぇーよ!! お前のはただの過剰防衛だ!! 全員戦闘不能にしやがって、交渉もなんもできねぇだろうがっ!!」 「平和的解決って難しいねぇ」 「難しくしてる張本人が言うなっ! 魔王様もなんか言ってやってください」  と、それまで私達のやりとりを静観していたアルは、 「今日もシアが元気で何より」  と、私を咎める事はなくそう笑った。 「クロード、この案件片しとけ」  最早定例と化しつつあるこの一通りのやり取りが落ち着いたらしいと判断したアルは、そっけなく書類の山をクロードに押し付ける。 「セリシアに対しての贔屓が過ぎる、このポンコツ魔王がぁぁああ」  文句を言いつつ書類の山を全部持ってクロードは執務室を出て行った。 「いいの? アレ放っておいて」  クロードが言ったとおり若干やり過ぎた感は自分でも感じていたので、謝るべきだったかなとしゅんとなった私を引き寄せて、アルはよしよしと頭を撫でる。 「クロードはアレで優秀だから大丈夫だよ。シアが怪我してなくて良かった」  全く気にする様子のないアルは、そう言って私の濃いピンク色に戻った髪を掬ってそこに口付けた。 ◆◆◆◆◆  アルが魔ノ国に帰ることにした新月の夜、私達は並んで星を見上げいた。  アルが帰る前に私の告白の返事をしたいと言ってデートに誘ってくれたのだ。  アルの呪いが完全に解けたため、あの黒いモノ達が襲ってくることはなく、とても静かな夜だった。  アルは私の髪に優しく触れ、とても可愛いく結ってくれる。 「なんだか子どもの頃に戻ったみたい」  器用に編み込まれた薄桃色の髪を見ながら私は笑う。プレゼントしてくれた花のバレッタで留めてくれたアルは、 「うん、可愛い。けど、もうシアはしっかり自分の事を自分で決められる大人だよ」  と優しくそう言って笑った。 「シア、俺の話を聞いてくれる?」  アルは魔ノ国の方を見て、そして私に目線を移す。 「俺は、ヒトはヒトと生きていく方がいいんだとずっと思っていた。いらない苦労をするよりも、同じ種族の方が分かり合える事も多いだろう」  アルは言葉を選びながら私をまっすぐ見てくれる。 「俺たちの関係はきっと誰からも理解されないし、祝福もしてもらえない。それが分かっていて、なお俺を選んでくれるなら、ずっと、シアのこと大事にするから、シアのこと好きでいてもいいかな?」  とても近い距離で、囁くように、語りかける紅茶色の瞳に私は頷く。 「私はそれでもアルがいい。アルじゃないと嫌だ」  私の返事なんて、もうずっと前から決まっている。  私達はしばらく見つめあって、どちらからともなくキスをした。 「いっそこのまま、連れ去りたいんだけど、流石に問題有りまくりだから、少し俺に時間をくれる?」  名残惜しそうにそう言ったアルは、 「魔族らしく、この国から聖女様を強奪することにするから、準備が整ったら攫われてね」  今はもうない誓約魔法の跡を撫でるように左手の甲をなぞった。 「うん、じゃあ私もこの国を心置きなく出ていけるように、惜しまれることのない悪女を目指してみるよ」  すでに一回追放されてるしね。そう笑った私は、子どもの時アルと別れる時いつもしていたように指切りをする。 「満月の夜に迎えに行くから」 「うん、満月の夜に待ってるね」  沢山の星を見上げながら、私はアルとこれから先の約束を交わした。 「私、ここに来られて本当によかったな」  アルと離れるのは寂しかったけれど、次回の約束のある"さようなら"は、思っていたよりずっと心穏やかな気持ちでいられた。
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