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その後も泣き脅しのような通知が届いたり、若干態度を改善した使者がやってきたので、やられた分だけ傷口に丁寧に塩を塗ってやり返した。
そんな事を繰り返していたら、とうとう大賢者が派遣されて来た。
「ラウル様が来るの、思ったより早かったですね」
ミルクティーを飲みながらそう言った私に、ラウルはとても楽しそうな顔をして王家の印が入った封筒を手渡す。
書面の内容をざっくりまとめると要求をなんでも飲むので至急戻って欲しいという事だった。
「余程困った事態になっているのね。何があったか聞いてもいいかしら?」
わざとらしくそう尋ねる私に、ラウルが笑う。
「魔ノ国に新しい魔王が立ってね。今後の領土不可侵と魔物や魔族からの人間の安全保障と引き換えに聖女セリシアを寄越せと言ってきた」
「で、国が助かるためにさっさと私の事を生贄に差し出そうとしてる、と?」
「いや、聖女は国にとって魔族に対抗できる大きな手段だし、国としては手放したくない。だから、また勇者一行に討伐する要請をかける事にしたんだ」
まぁ、そう言う流れになるよねと私はラウルが持ってきてくれたお茶菓子をもぐもぐ食べながら話しに耳を傾ける。
「ところがいつまで経っても聖女が召喚に応じない。いくらノエルが強くても、パーティに回復要員がいなければ討伐は無理だろう」
歴代魔王との戦いは、人類最強の勇者単体ではなく、勇者が遺憾無くその力を発揮できるための補助が何人もついた状態で挑んでいる。
その要とも言える聖女の超回復なしでの討伐は自殺行為であることは誰の目にも明らかだ。
「ところで、勇者様討伐に行くって言ってるの? 最近うちに顔を出した時はそんな感じじゃなかったけど」
つい先日ノエルがふらっとラスティにやって来て、大量のお土産を片手にシェイナの事を口説いてたのは町中の話題だ。
ちなみにシェイナの答えは保留と言う事まで町人みんなが知っている。
「要求してきた魔王の名前を見て、美味い生姜焼き食べられなくなるから嫌だってさ」
「あら大変。魔王様に胃袋掴まれてるのね」
「そりゃもう、ガッツリと。確かに美味しかった。でも僕的にはスイーツセットの方を全力で推したい」
「ラウル様甘い物に目がないもんね。残念だけど、今カフェ休業中なのよ。理由は言わずもがなだけど」
戦わずして勇者と大賢者を陥落させているあたり"美味しい"は世界を救うのかもしれないなんて、アルの事を考えながら思う。
そんな事を考えていたらアルのごはんがとても恋しくなった。
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