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「で、追放した聖女は応じない。勇者も行く気なし。国の方針はどうなったの?」
続きを促す私に、ラウルは報告書を見せる。
「ここ最近の国内での異変についての調査結果からも瘴気の早急な安定化について言及した。魔王の要求に応じて聖女を渡すべき、と」
「要求、通りそう?」
「最初はシアさえ召喚に応じればどうとでもなると甘く見てたみたいだけど、日に日に魔王からの圧が強くなっててね、今はシアを生贄に出す方針で固まってる。そしてシアが魔ノ国に行きさえすれば、あわよくば魔族や魔王を倒してくれるんじゃないかとすら思ってるみたいだよ。召喚に応じてもらうためになんでも要求飲むってさ」
事のあらましを話してくれたラウルは、
「どうしたい、シア? 今なら要求し放題。存分にふっかけるといいよ」
と私の希望を聞いてくれる。
「とりあえず、王都で働いた5年分の未払い賃金払ってもらいましょうか? 延滞分の利子つきで」
派遣一回で金貨1000万枚なんだっけ? っとラウルに尋ねるとすでに私の派遣回数を調べて来てくれており、請求書まで作成されていた。
流石ラウル様、分かってらっしゃる。そう笑って目を通した書面に書かれていた金額を見て軽く目眩がする。
そこには一年分の国家予算とほぼ同等の金額が書かれていた。
「あとは私の身分の解放。私はこの国の聖女を辞める。だから魔ノ国に渡った後の私の自由を保障して欲しい」
この国に生まれた人間は、等しく国のものらしい。だから他所へ移住する際には移住税と言って籍を抜くために自分の身分を国から買わなくてはいけない。
特に希少価値の高い聖女などは国が呼べば駆けつけなくてはならない義務などを課される。
召喚に応じるのはこれっきり。一度国を出たら、もう二度と戻るつもりはない。
「そして、聖女が生贄に取られた事を理由として魔ノ国に攻め入ることはしないこと。もちろん、向こうが領土不可侵と安全保障を守っているうちは魔族と争わないこと」
アルが頂点にいるうちは、魔族がその約束を破ることはないだろう。
そしていつか私がいなくなる日が来ても、アルならきっと守ってくれると信じている。
「私の要求は以上。この国の聖女は私の代で終わり。魔族との争いもね」
協力してね、と頭を下げた私にラウルは、
「シアが決めたことなら、好きにするといいよ」
と子どもにやるように頭をくしゃくしゃに撫でて了承してくれた。
こんな要求飲めるかと散々王家や教会は駄々をこねたようだけど、私は要求が通るまで一切召喚に応じなかった。
そして魔ノ国からずっと圧力がかかり続け根負けした国から全部の要求をもぎ取った私が、魔ノ国の地を踏めたのはアルと別れて半年経った満月の夜の事だった。
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