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48.その聖女、永遠を遺す。
私が魔ノ国にやってきて半年。
一応形としては魔王に要求された生贄となっているのだが、その実態は大分異なる。
「はーい♪往来での申請のない決闘は禁止ですよー! 今すぐやめないなら、どうなるか分かってるよね?」
警告ののち、私は銃を争っている魔族2人に向けてぶっ放す。
私のこの特殊な回復魔法は、潜在的に溜まったダメージを強制的にデトックスする。
コレは魔族にも有効らしく、争っていた2人は叫び声をあげて地面にうずくまり悶え苦しんでいた。
「喧嘩両成敗、反省なさい」
働かない宣言をしていた頃とは違い、私は正当な報酬を頂きながらアルの元で魔王様の部下として働いている。
魔ノ国で働きはじめた頃は魔族の皆さまに絡まれたり遠巻きに見られたりしていたけれど、今ではそれなりの関係を築いている。
クロード曰くアルが私の知らないところで威嚇しているらしい。
魔族は多民族国家らしく常に諍いが絶えない。
その仲裁に出たり、怪我人の手当てをしたり、魔族にとって程よい濃度になるように瘴気を祓ったりと聖女というよりも何でも屋さん状態なのだけど、ルルベル王国にいた時よりもずっと安定した労働環境にのびのびと働けているし、やりがいも感じている。
魔ノ国を巡りながら魔族もヒトも大して違いなんてなく、住めばどこでも都なんだなと思う。
「シア、そっち終わり?」
「はい、終わりです」
一応人目もあるので勤務中は敬語を使っている私の元にやってきたアルは、よくできましたと目一杯褒めて頭を撫でてくれたあと口の中にチョコレートを放り込む。
「また子ども扱いする。もうすぐ私20歳なんだけど。あと勤務中です」
「ふふ。つい、頑張ってるシアを見たら甘やかしたくなって。もう今日はこれで上がりだから。帰ろうか?」
そう言ってふわっと優しい笑顔を浮かべたアルは私に手を差し伸べる。
この手を取らないと抱き抱えられて帰る羽目になるので、最近は諦めて手を繋ぐようにした。
あの日約束してくれたように、アルは私の事をとても大事にしてくれている。
私がコチラに来てからアルは使用人が沢山いる屋敷ではなく、私のために用意してくれた小さな一軒家に私と2人で住んでいる。
ラスティに住んでいた家と似たような作りで、ゆっくり2人で過ごす時間が何より幸せだった。
「やばい、仕事したくない。ラスティに戻りたい。王様やめたい」
夕食後、今日も疲れたーっとソファーに転がるアルと一緒にお茶をする。
「またそう言うこという。クロードに小言言われるよ?」
「魔王よりカフェごはん作ってる方が楽しかったもん。四六時中シアのこと餌付けし放題」
「いやいやいや、私太っちゃうよ?」
「シアはもう少し肉つけても大丈夫。シアが美味しそうに食べてるの見るのが好きだし」
ぎゅっと私に抱きついてきたアルは、
「俺ももっとシアと外回りしたいのに、クロードばっかりズルい」
そう言ってため息を漏らす。
「ふふ、魔ノ国で一番強くて怖い王様が、なんか子どもみたいなこと言ってる」
まるで大きな子どもみたいに甘えてくるアルが可愛いくて、私は黒髪を撫でながらそう笑う。
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