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2.その聖女、最果ての地を踏む。
と、言うわけでやってきました最果ての地! 私の事を誰も知らない、初めての場所にテンションがどうしようもなく上がる。
それにしても、送るならちゃんと最後まで送って欲しかったなと刑の執行の不手際に不満が募る。
たかが、大型魔獣が出たくらいで尻尾を巻いて逃げないで欲しかった。しかも私のこと生贄に差し出したし。
結局自力で魔獣退治して、自力で最果てまで来ちゃったじゃない。まぁ、彼らが置いて行った馬の一頭が無事だったのがせめてもの救いだけど。
治癒魔法で怪我を治してあげたら随分と懐かれたので、慰謝料代わりにこの子をもらう事にした。
「ねぇ、マロ。とりあえず仕事と住処の確保が必要よね。マロが過ごしやすいように馬小屋があるところが理想なんだけど」
マロ眉だったからマロと名付けたけど、ちょっと安直過ぎたかしら? って思ったけど、マロはヒヒーンと鳴いて頭を擦り付けてくる。
本当になんて賢くていい子かしら? 食べる事に困っても、マロだけは食べまいと誓って頭を撫でてやった。
文無しだし、お腹も空いてるし、ふかふかのベッドも身支度を整えるお湯もないけれど、気分としては控えめに言って最高っ!
もう聖女じゃない私は、朝のお勤めの祈りもないし、結界張りや修復や邪気払いもしなくていいし、長蛇の列の怪我人の治癒もしなくていいし、モンスターを倒す冒険者を守るためにダンジョンに潜る必要もない。
ついでにもう王子の婚約者でもないから、王妃教育もない。
好きな時間に起きて、好きなだけダラダラして、好きなことだけして過ごせばいいなんて、幸せ過ぎる。
これからは、この最果ての地で憧れのスローライフを満喫してやる。もう二度と聖女として働くものか。
無償労働だったこの5年を振り返り、私は、自由だっー! って、全力で叫びたい衝動に駆られるけど、それをやったらただの変人なので、ぐっと堪える。
「とは言え、スローライフを送るにも先立つものは必要よね」
んー困った。私にあるのはマロとこの身だけ。先の魔獣討伐で着ているものもボロボロだし、一見すると浮浪者か。まぁ、この方が襲われる心配なくていいけど。
などと考えていると、マロが私の背を押すようにぐりぐりと頭を押しつけ、進むように促す。
「そうね! まずは町に行ってみましょうか」
ギルドに行けば仕事のひとつも見つかるかもしれない。私は希望を胸に抱いて、マロと町に向けて歩き出した。
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