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3.その聖女、現実を知る。
最果ての町はなんというかとても寂れていて、活気がなかった。
うん、びっくりするくらい何にもないな。住んでいる住人もなんだか俯いているし、開いているお店も少ないし。
ザッど田舎って感じは気に入ったけど、空気が澱んでいるのは頂けない。聖女だった頃の私に派遣依頼がかからなかった理由は気になるが、まぁもう聖女じゃない私には関係のない話だ。
荒れていようが、活気がなかろうが、魔獣が出るところには冒険者ギルドは存在する。この最果ての地も例外ではなくそれはあった。
若干ボロいけど、見慣れた佇まい。私は躊躇わず中に入る。
「いらっしゃいませ〜♪ おんやぁー見慣れないお方。ご依頼は2番カウンターですよ〜」
と若くて可愛い女性が、若干間延びした話し方で案内をしてくれる。まぁ、確かにこのナリじゃ仕事を受けに来たようには見えないよね。
「依頼じゃないの。ギルド登録と仕事を探しに来たんだけど、どこかしら?」
「おや、まぁ。それはそれは大変失礼を。私、コチラでギルドマスターをしておりますシェイナと申します」
てっきり受付のお姉さんだと思っていたのにまさかのギルドマスター。
「…………ギルドマスター自ら案内してるの?」
「人手不足っというのももちろんですがぁ、何より暇なので」
コチラにどうぞーっとそのままカウンターに案内され、登録用紙を渡される。さらっと記入しながら、ジョブ欄で手が止まる。
「これ、書かなきゃダメ?」
私はジョブ欄を指さして尋ねる。
「空欄でも構いませんが、お仕事マッチングの時不利ですよ〜」
「いいわ。掲示板の仕事しかしないから。私そもそも働きたくないし」
「えーっと、働きたくないのに何故にギルドへ」
「私の目的は"スローライフを送る事"なの。とりあえず先立つものが無いからお金稼ぎに来ただけで、どこかでゆっくり過ごしたいわ」
町外れで土地と家を確保して、地産地消の農園なんか経営して、牧場も作って、のんびり暮らしたいなぁなんてのどかな風景を想像して、ふふふっと笑みが漏れる私にシェイナは残念そうなものを見るような視線を送り、大げさに首を振ってため息を漏らす。
「ひじょーに、申し上げにくいのですがぁ、この最果ての地、ラスティでその夢を叶えるのは難しいかと思います〜」
記入済みのカードを確認して、ギルドの登録カードを出してくれたシェイナは、私にスローライフが無理な理由をあげていく。
「このラスティは魔ノ国と接しているため瘴気が濃すぎて碌な作物が育たないのですよ〜。なので、農業も酪農もやってなくて、ほぼほぼ他領との取引で食糧確保しているんですよ」
はっ? マジで!!!?
私は受け取ったカードを落とす。田舎暮らしの代名詞とも言える一次産業やってない、だと?
「なのでぇ、チーズ作ったりとかのオシャレ工房もなしですねぇ」
一次産業やってないからその後の加工業もなしだなんてひどい。なんかそういうその土地ならでは、って感じの食べ物食べるのすごく期待して来たのにと私のがっかり感が増す。
「あと農業にしても酪農にしても、めっちゃ朝から晩まで働くんでぇ、全然スローなライフじゃないですよ(笑)」
その(笑)がすごくムカツクんだけど、まぁシェイナの言い分は最もだ。
植物にしろ動物にしろ生き物相手だから24時間年中無休で人手がいるし。
「労働者雇ってローテーション組んで回して行けば何とかならない?」
「ん〜そもそもぉー今はその人手の確保が難しいと言うか」
「なんで!?」
「瘴気濃すぎて、疫病流行ってるんですよね。この町全体に」
あ、確かにこの町やたらと出歩く人が少なくて活気なかったわとここまでの道のりを思い出す。
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