3.その聖女、現実を知る。

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「なんでこんな事になってるの? なんで領主は何もしてないの!? 普通、ここまでヤバかったら他領に助けを求めたり、国に聖女派遣要請して土地を清めたりするでしょ」  このままじゃ、私のスローライフ計画が始まる前に詰みの一手だ。シェイナにそう問いただすと、彼女は少し悲しそうな顔をして、 「数年前までは、こうじゃなかったんですけどねぇ。魔ノ国の王がいなくなってしまって、高濃度の瘴気が流れてくるようになってしまったんです」  と説明した。  ん? とそこで私の思考が止まる。数年前、魔王、いなくなる。そして脳内検索した結果残念な事実に行き当たる。  はっ! 犯人私じゃんっ。直接討伐したわけじゃないけど、国王陛下直々の依頼で勇者パーティに入れられて討伐補助したわ。 「聖女様の依頼には高額の対価が必要で、うちの領地の経営状況ではとてもとても」 「ギルドマスター領主の懐具合まで知ってるの?」 「まぁ、娘なので」 「……ギルドマスター設定盛りすぎじゃない?」 「本来のマスターはさっさとこの最果て見限って夜逃げしちゃったので、正確には私代理なんですよ〜」  なるほど、追放先は思ったよりも重症だった。まぁそうでないと流刑になんないしね。  でも私が今気になるのはそこじゃない。 「ねぇ、聖女って呼ぶのお金かかるの?」  そう、お金。私、聖女だった頃1銅貨すらもらってないんだけど。 「それはもちろん、聖女様ですから。大体一回あたりの派遣の相場は金貨500万枚くらいでしょうか?」 「はぁ? そんなにするの?」  金貨500万枚なんて、上級官僚の平均年収の約半分だ。それをたった1回浄化魔法かけるだけで取るって、この5年で私どれだけ稼がされたの? とちょっと頭がクラクラして来た。 「基本がそれってだけで、派遣にかかる移動費や食費、護衛費なんかもいれるとざっと金貨1000万枚でしょうか。産業も乏しく税収も上がらない零細領地には夢のまた夢ですねぇ」  聖女様きっといい暮らししてるんだろうなぁなんて羨ましがられるけど、私今文無しだからね。  朝から晩まで働いて、与えられたのは3食と寝床だけ。しかも間に王妃教育。まぁ搾取されてるだろうなと思ってはいたが、思っていた以上にブラック企業だったわと黒い笑みが漏れる。 「そんなわけでこの土地は大体訳ありさんばかりが流れてくるんですよ〜。それで治安も悪化してますので、自分の身は自分で守ってくださいね。さて、ギルドではお仕事とお宿のご紹介くらいはできるので、めげずに生き残りを目指して労働に励んでくださいませませ〜」  ざっくり現状を説明したシェイナはそう言って、私に古いリーフレットを差し出す。そこに載っていた写真は今とは違う活気ある町の風景だった。それを見た私は決意する。 「シェイナ、私はやっぱりここでスローライフを送る事にするわ。だから、領主さまに会わせて頂戴」 「父に、ですか?」  きょとんと聞き返すシェイナに、私は笑う。 「ええ、ちょっと売り込みをしようと思うの。正当な対価と引き換えにね」  せっかく自由になったのに、こんなところでめげてたまるか。待ってろよ! 聖女として働かないスローライフ!!  そう意気込んだ私はシェイナに頼んで領主と会わせてもらうことになった。
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