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「奇跡だ!」
「聖女様っ!! ありがとうございます」
「ありがとう! 聖女様」
「いや、だから聖女じゃないってばっ!! 聖女じゃないから無償労働お断り。私は働きたくないのっ!!」
鳴り止まない聖女コールに私は思わず声を張り上げる。せっかく聖女を辞めてきたのに聖女なんて冗談じゃない。
隔離施設には結構な人数がいて、勝手に足を踏み入れたシェイナと私は領主に怒られたけど、事情を説明。
訝しんでいた人も重症な子どもを一人治してあげたら、あっという間に私と契約したい人で溢れた。
もう面倒なので隔離施設事まとめて完全回復魔法をかけてあげた。おかげでここら一体の空気まで浄化された。さすが私、やればできる子。でもさすがに疲れたっと隅でぐでっていると、
「ありがとう、お姉ちゃん! リト、元気になったよ」
と最初に治してあげた子が寄ってきた。小さくて、それにかなり痩せている。
「お花、あげる」
それは紙の切れ端に殴り書きされた、色のない花だった。
「ホンモノじゃなくて、ごめんね」
そう言ってリトはしゅんと顔を伏せる。
「こら、聖女様に失礼よ」
「……聖女じゃないってば。シアでいい」
母親らしきヒトがリトを嗜める。
「リトが真っ先に私に報酬くれたわね。分かってるじゃない。そう、労働にはそれに見合った対価が必要なのよ」
私は描かれた絵の花を受け取り、リトの頭を撫でる。ありがとう、なんて感謝されたのいつぶりだろう?
聖女なんだから当たり前。そんな毎日で擦り切れた精神が、少し回復した気がした。
「ありがとう、リト。お花きれいね」
お礼を言うと、リトは笑顔でどういたしましてと言ってくれた。
とびっきりの笑顔と感謝の言葉と手製のお花。対価としては悪くない。
「私は、セリシア! ただのセリシア。聖女なんかじゃないわ。だから、ここにいる全員に報酬を要求します。せいぜい、対価を払い終えるまで私に尽くしてください」
でも、私は知っている。今は治癒魔法が物珍しいだけで、いつかはきっとそれが当たり前になって、感謝の気持ちなんてなくなって、そして聖女は消耗されて使い倒されるんだって。
そんなのは、もう2度とごめんだわ。
首都で暮らした5年間の聖女生活を思い出して、私は拳を握りしめ、改めて決意する。
"もう、聖女としてなんか、絶対働かない"
と。
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