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ああ、考え事をしていたら、ここら辺一帯の瘴気を全部祓ってしまった。朝のお勤めも聖女の祈りもする気なかったのにうっかりしてたわ。
濃い霧が晴れて、森全体の空気が澄んでいる。瘴気を祓うのは農場予定地と家周辺だけにするつもりだったのに、習慣っておそろしいと私は憂鬱な気持ちでため息をついた。
「そろそろ帰ろうか」
とマロに話しかけたとき、マロがヒヒーンと控えめに鳴き私の服を引っ張る。
何事かと思って視線を先にやれば、ヒトが倒れているのを見つけてしまった。
マロはホントに賢い子。
聖女様じゃないし、見捨てた方がいいかしらとも思っていたけれど、マロが背を押すので一応生存確認だけでもと思い近づく。
「……!! この子、は」
そこに倒れていたのはまだ線の細い少年で、黒い髪をしていた。そして、その髪から人間では見られないツノが生えていた。
私はその容姿に息を呑む。紛れもなく魔族の子、だ。
規則正しく呼吸はしているが、痛むのか時折呻き声が聞こえ、表情が険しくなる。破れた服の隙間から所々に見られるかすり傷と打ち身による内出血。
内臓がやられていないといいけどと、治癒魔法をかけようとして手を止める。
魔族に光属性の魔法かけたらマズイのでは?
うっかり、浄化魔法で瘴気を祓うみたいにダメージ負わせてしまったら、すでに怪我しているのに瀕死、下手したら死亡するのでは?
そんな可能性を考えて、魔法を詠唱できなかった。
『数年前までは、こうじゃなかったんですけどねぇ。魔ノ国の王がいなくなってしまって、高濃度の瘴気が流れてくるようになってしまったんです』
そう言っていた時の、シェイナの言葉と表情を思い出す。
魔王を討伐した時だって、ラスティがこんな事になるだなんて考えもしなかった。
この子もひょっとしたら、魔王がいなくなったせいで、こんなところで行き倒れる羽目になったのかもしれない。
巡り巡って、コレは私のせいなのかもしれないと急に罪悪感を覚えた。
「……どう、しよう……?」
その時、その魔族の子の目が薄っすら開いた。その虚な紅茶色の瞳が、私を捉えて微かに笑った気がした。そして、直ぐに気を失う。
「あーもぅ、どうにでもなれ、よ!」
こんなところで死なれても後味が悪い。私はマロに手伝ってもらって、その子をうちに連れて帰ることにした。
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