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6.その聖女、責任を取る。
家に連れて帰って魔族の子の手当てをする。幸い、山歩きのおかげで瘴気に強い薬草の類は見つけられていたから、傷薬を作ることはできた。
ごめんねと声をかけ、服を取り払ったその身体は傷だらけで、包帯を巻くだけでも一苦労だった。
聖女だった私にとって魔族は魔獣やモンスター同様討伐対象で、殺傷方法以外その生態をよく知らないのだと今更ながら気がついた。
傷からの発熱で苦しそうなその子はツノの存在以外、人とほとんど変わらなく見える。
治癒魔法に頼れない私は、この子に何がしてあげられるだろう?
孤児院で先生に教わった事をひとつひとつ思い出しながら、魔法に頼らず看病を続ける。人のやり方が魔族に有効なのかは分からないけれど、他に試せる事がない。
冷たいタオルで太い血管を冷やしてあげたら少し表情が緩んだ。そうして夜通し看病し、熱と呼吸が落ち着いたのを確認して、私はようやく息をついたのだった。
目が覚めたその子は、何と言うか非常に整った顔立ちをしていた。
あの状態からわずか3日でほぼ回復って魔族の生命力すごいな。傷の治りもとても早いし。
そして現在、魔法も使わず献身的に看病した私はものすごくときめいていた。
「助けていただき、ありがとうございます」
折り目正しくベッドに腰掛け、深々と礼をしてそう言う美少年。
それだけでもめちゃくちゃ絵になるなぁ、思っていたのだが、紅茶色の瞳を瞬かせ可愛い顔をした彼がキョトンとした表情で、
「……だけど、どうして聖女様が俺を助けてくれたの?」
不思議そうに小首を傾げる仕草が可愛すぎるて、キュンとなる。
リトの時も思ったけれど、やっぱり子どもは可愛い。素直だし。
でも、はっきりさせておかなきゃならない事がある。
「ごめん、大前提として私聖女じゃないから」
そう、私は聖女なんかじゃない。これだけはしっかり伝えておかねばと、全力で否定する。
「そんなに高尚で純度の高い光属性の魔力を蓄えた人間なのに、聖女じゃないなんてこと、あるの?」
紅茶色の瞳が困惑気味に瞬いて私にそう尋ねる。なんか、一々この子キラキラしてて眩しいんだけど、それは置いておいて。
「えっ!? マジで? 魔族って初見でそんなの分かるの?」
疑問符だらけの私にこくんと頷いて肯定する。
だから魔王討伐時回復要員の私が真っ先に狙われたのかぁ、と納得。まぁ、向かってきた敵は全て返り討ちにしましたけども。
と、知らなかった魔族の生態を一つ学んだところで、私は王子から直々に頂いた王家の紋章入りの印籠を取り出す。
「私、本当に聖女じゃないのよ。こっちの国の字が読めるか分からないけど、"聖女に非"って書いてある身分証」
読めるかしら? と差し出すとマジマジとそれを眺めて、
「ルルベル王国の王族は馬鹿なの?」
と、真顔で聞かれた。
どうやら字が読めるらしい。他国のしかも人間の文字が読めるなんてこの子賢いな。
「こんな、明らかに聖女でしかない人間に"聖女に非"って、一体……?」
どんな策略がとか罠かとかぶつぶつ呟いているけれど、そんな大層なものじゃない。
王子に婚約破棄されて追放された。それだけだ。
「んー君に私がどう見えるかは分からないけど、とにかく私は国が認めた聖女様じゃない、ただの一般人だから。そして、目下の目標はスローライフよ」
びしっと指を立ててキッパリそう告げた私は、朝食のパンがゆを差し出す。
「だから聖女として働く気はないし、魔族の討伐もしない。お礼ならマロに言ってやって。君を見つけたのはあの子だから」
多分、マロが見つけなかったら私は気づかなかったし、誰かを助けようとは思わなかった。
難しい顔で考えこんでいる少年に、襲って来ない限りは討伐したりしないから安心して欲しいとなるべく穏やかに伝えた。
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