43.その聖女、主導権を取られる。

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43.その聖女、主導権を取られる。

 アルの部屋のベッドに2人で並んで腰掛ける。初めてこの空き部屋をアルにあげてからもうすぐ1年。物はないけれど、そこかしこにアルの気配を感じる。  ほとんど立ち入ることのなかったここに今自分がいることが不思議で、ここがアルの部屋だと意識して私の心音が早くなる。 「シア、本気?」 「冗談でこんな事言わないわ」  首筋が見えるように髪を結い直した私は、アルに問われて迷わず頷く。 「解呪の条件は、満月である事、満月であってもアルが普段通り動けること、私が呪いに負けるくらい魔力が弱っている事、私が呪いに負けて死神に殺された後アルが死神を倒せる事、仮死状態の私を私の聖女の力を入れた古術式を発動させて蘇生できること、これらを全部満たす必要があるわ」  次の満月まであと一週間。  次の満月に呪いを強制的に発動させ、死神を呼び決着をつけようと2人で決めた。   呪いを成就させるためには、私は一度死ななくてはならない。とはいえ、本当に死ぬわけではなく、仮死状態に留めるつもりだ。  そのためには、私の強過ぎる魔力と聖女の力を削らなくてはならない。そしてアルが動けるためには、魔力が必要だ。 「一番効率良く条件を満たすには、アルが私の魔力と神気を喰べること、だと思う。時間もないし」 「そう、なんだけど」  アルは歯切れ悪くそういうと、私の提案に難色を示す。 「俺は、シアを傷つけたくない。絶対痛いと思うし。泣かせるのも怖がらせるのも嫌だし」  目を伏せたアルは私の首筋をそっと指先でなぞる。とても大切な物でも触るかのような優しい手つき。  私が傷つかないように、いつも爪を短く整えて、外では手袋をはめているその指を見ながら私は笑う。 「怖くないよ、アルだから。知らない魔族に喰い荒らされるのは2度とごめんだけど。まぁ、痛いのは我慢するよ」  なお決心がつかない様子のアルに、私は仕方ないなと苦笑して身体を預けて寄りかかる。 「アルは私の事、嫌い?」 「シア?」  昔受けたレクチャーを懸命に思い出しながら、まさか実践する日が来るとは思わなかったなと内心でつぶやく。 「ねぇ、私のこと食べて?」  小首を傾げて、上目遣いに。オッケーをもらうまでにめちゃくちゃ何度もリテイクを喰らったからできているはずだと自信ありげな私の頭上にアルから鉄拳が落とされた。 「いったぁ。なんで怒るの?」 「あざとい。意味違うし。他所で絶対やらないように。あと誰に習ったの?」  詳しく教えて? と笑顔で怒るアルの顔が怖くて思わずベッドに正座し背筋をピンと伸ばした私は、 「昔、お世話になった娼館のお姉様方に」  と勇者様御一行に連れて行かれた経緯まで洗いざらい吐いた。 「うちのシアに余計な事吹き込みやがって。今度会ったら勇者吊し上げる」  やばい、魔王が勇者にお怒りだ。私、この場合どっちについたらいいんだろうとそんな事が一瞬脳裏を掠めたけれど、面倒になったので次がない事を祈ることにした。
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