43.その聖女、主導権を取られる。

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「シア」  俯いた私の事をアルが優しくそう呼んで、腕を伸ばしてくる。先程怒られたばかりで正解が分からず戸惑う私を、自分の膝に乗せたアルは、 「なるべく、痛くしないから。怖かったらいつでもやめるからちゃんと言ってね」  と、優しい口調でそう言った。  怖くない。その気持ちに嘘はなかったけれど、首筋にアルの顔が近づいて来た瞬間、どうしても子どもの時の光景がチラついて、私はぎゅっと目を閉じた。 「……アル?」  いつまでもやって来ない痛みに私はアルの事を呼ぶ。アルはそのまま私に牙を立てたりしないで、首筋に顔をうずめて私の事を抱きしめる。 「……シア、すごい心拍数。怖い?」  いつもより少し低い声で、アルが耳元で囁く。心配そうなアルの声になんだか落ち着いた私は、 「少しだけね。でも、今平気になったみたい」  とアルの黒髪をそっと撫でた。触り心地のいい髪がさらりと指先を抜ける。それがとても私を安心させて、何度もそうやって髪を撫でた。  「アルの髪好きだなぁ」 「髪だけ?」  顔を上げたアルの紅茶色の瞳が私を覗き込む。 「アルの笑った顔が好き、あと優しいところも、心配症なところも、ちょっと寂しがり屋なところも、全部好き」  もう、次の満月が終わったら2度と伝える機会はないかもしれない。  そう思ったら、自然と言葉が溢れていた。 「……それだけ言っておいて、さっきの返事、俺に言わせてくれないの?」 「それは解呪できてからで」  そう断った私に、少し不満気なアルは、 「ずるいなぁ、シアは」  そう言ってコツンと私と額を合わせた。 「俺も自分の気持ち言っておきたかったんだけど、シアが言わせてくれないから、態度で示しとくね?」  そう言ったアルは私の首筋に唇を寄せる。チュッと音を立てて、アルは私の首筋に口付けを落とす。 「えっと、アル?」  魔力と神気を喰べるのって確か血を吸うのと同じだった気が、と言いかけた私を見る紅茶色の瞳があまりに色っぽくていつもと違うアルに言葉を失くす。  ふっと笑ったアルは、言葉を失くした私をしばらく見つめたあと、私に見せつけるように首筋からその周辺にかけて甘噛みをしたり、舐めたり、キスをする。  静かな部屋に音が響いて、のぼせたように耳まで赤くなった私の顔を見てアルは満足そうに、 「伝わったようで良かった」  と囁いた。 「か、揶揄わないで、よ」  涙目になっている私の目を覗き込んだアルは色っぽく笑って、 「真剣だよ? あとこんなんじゃ全然伝え足りないから」  そう言って私の唇を指でなぞる。アルの顔が近づいて来て、私はそっと目を閉じる。  とても優しい口付けの後、 「シアの魔力と神気もらうね。この続きは、解呪した後、ちゃんと言葉で伝えてからね」  と頭を撫でられた。そのあと魔力も神気も抜かれたが、さっきまでの刺激が強過ぎて思考がダウンしていた私は、痛みも恐怖も感じなかった。
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