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1.その聖女、追放される。
その日は何の前触れもなく訪れた。
「今この時を持って、セリシア・ノートンとの婚約を破棄する」
私に声高にそう宣言したのは、ルルベル王国第一王子のカイル殿下、つまり私の婚約者だ。
そしてその婚約者が腰を抱き、自分に引き寄せ愛おしそうな眼差しを送る相手は……誰だっけ? 全く見覚えないけど、超絶美人さんだ。
王子メンクイですねぇ。気持ち分かるけど。そんな美人がハラハラ涙を流しながら目を伏せて王子に寄り添う図って、すごく絵になる。王子顔だけは良いし。
「聖女と偽ったばかりか、本物の聖女であるプリシエラの功績を掠め取り、貶める行為など到底見過ごせるものではない。よって、セリシアを最果てへと追放する」
ギャラリーのざわめきを聞きながら、私はがくっと膝から崩れ落ち、緋色の高級そうな絨毯に目を落とす。
婚約破棄?
最果てに追放?
ポタ、ポタっと私の目から涙がこぼれ落ち、必死で口元を押さえる。そうでないと叫び出しそうだった。
「ふんっ、今更悔いてももう遅い! 貴様の様な性根の腐った下賎な人間などそもそも私の婚約者に相応しくなどなかったのだ」
私の態度に満足気に頷き、そして不遜な態度でさらに罵る。
そして目の前で2人の世界を展開し出す王子と自称聖女を見ながら、私の嬉し涙がすっと引いていく。
そもそも、私婚約者になりたいなんて頼んでないし、とか。
王子最後に一発くらい殴っても許されるんじゃなかろうか、とか。
正直頭を掠めたけれど、ぐっと耐え膝をついたまま両手を組み、私は全力で悲痛な声を上げ、
「王子のおっしゃる通りでございます。私が聖女などと烏滸がましくも名乗り、プ、プ……プリ、えぇーと新しい本物の聖女様? の功績を自分のものと偽ったなど、我が事ながら何と罪深い」
と、全力でこの茶番に乗っかることにした。だって、せっかくの奴隷解放宣言にも等しいこのチャンス。これを逃したら二度と来ないかもしれないし。
なんか、自称聖女様が美しい目元をピクピクさせながらこっち睨んでるけど、ごめん、名前覚えられなかったわ。だって、王子の恋人に会うのも、彼女の存在を認識したのも今日が初めてだし。
「もちろん、婚約破棄も追放もお受けし、この身で償いたいと存じます。ですが! それだけではまだ私の犯した罪の重さには釣り合わないと思うのです」
私は口元を押さえ、涙を流しそう訴える。
「婚約破棄の手続きは、どうぞこの場でなさってください。ここにいる皆さまが私の罪の証人です。また、私が本物の聖女様にご迷惑をおかけする事がないよう、そして二度と私が自身を聖女などと偽る事がないように、どうぞ王家の紋章入りで"聖女に非"とお墨付きをした証明書の発行と、その旨を全ギルド並びに教会へ通達ください」
だって後からやっぱりなしで、戻って来いとか言われたら困るし。
「王子や聖女様にこれ以上ご心労をおかけするなど耐えられません。万が一にも私が途中で逃げる事がないよう見張りをつけ、確実に最果てまで追放なさってください」
なにせ私文無しなもので、自力で最果てまで行けって言われたら困るのよね。護衛付きで宿ありだとありがたいし。
「ほう、殊勝な心がけだ。良い、今すぐそうしよう」
こいつ、マジで馬鹿だと内心で呆れる反面、希望が通ってよっしゃーと叫びたいのを我慢する。
そしてそんな王子を引き取った上に、今まで私がしていた聖女の仕事を全部引き受けてくれるとか、彼女さんもう聖女通り越して女神でしょ。
本当にありがとうございますと、私は王子の婚約者になってから初めて王子に心から感謝した。
かくして私は無事断罪され、そして婚約破棄ならびに最果てへの追放が執行されたのだった。
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