真夜中のカステラ

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 なんだか無性に喉が渇いた。そう思って左腕を持ち上げて腕時計を見たら、丁度三時を回ったところだった。暗闇の中で、アナログ時計の文字盤が薄緑色に発光している。ブルーライトよりもずっと控えめな、うすぼんやりとした光。まるで「こんな夜中に起きるなんて大変ですね」と私の気持ちに寄り添ってくれているようだった。  ベッドの足元に置いた扇風機がそよそよと風を送ってくる。真夏の夜の空気はしっとりと重い。ベッドと壁の間にできるひんやりとしたスペースに足先を突っ込んでみたけれど、もう眠ることは出来そうになかった。往生際悪くしばらくごろごろしてから、私は仕方なくベッドを降りた。暗い中を手探りで移動して、キッチンに向かう。お茶のボトルがもう冷えているはず。  冷蔵庫を開けると、まるで映画に出てくる宇宙船のような眩しい光があふれだして来た。一瞬、冷蔵庫の中から逆光に照らされた宇宙人のシルエットが歩み出てくるような錯覚に襲われる。未知との遭遇、なんちゃって、と呟いてから、お茶のボトルを手に取って扉を閉める。振り返ると、目と鼻の先にコマツさんの喉ぼとけがあって、私はぐあ、とも、どわ、ともつかないおかしな声を立てて後じさった。
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