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第一話 腐敗の魔道士
四隅にある蜀台の仄かな灯りが、不気味な陰影を天井と床に作り上げていた。部屋の四方壁一面に棚があり、後は扉が一枚、そして大きな水槽と長卓が一つ無造作に隅に寄せてあった。棚には数々の巻物や羊皮紙の束、上質な犢皮紙の書物などが並べられていた。また、別の棚にはフラスコやビーカー、ピペットなどの容器が並べられ、奇妙なオブジェなどもあった。容器には爬虫類などの生物や何らかの目玉、あるいは臓物であろうか。それらが薄黄色い液体に漬かされていた。まるで何かの実験部屋のようであった。
そして部屋の中央。床には大きな円が描かれていた。その円は、何やら硬質で長大な蛇の抜け殻で作られたものだった。邪眼蛇の抜け殻だ。その円の縁に沿って魔法言語が書き記され、干からびた蛙が文字の合間に均等に置かれていた。蛇の抜け殻も蛙も、それぞれ再生を意味するものだ。邪眼蛇ともなれば、蛇の王であるという古い言い伝えもある。
円の中には裸体の美しい女が、均整の取れた胸下で手を組んで横たわっていた。横たわる女の側には小さな卓があり、その上にグラスに注がれた黄金の果実酒が一杯。そして女を挟むように、棹に乗った二本の蜀台が頼りなく灯っていた。
女は銀髪に混じる金色の髪、しみ一つ無い無垢な白い肌、そして臀部より生える馬のような尾が、その女がアルファヌであることを示していた。ただ、この女は純血のアルファヌではないようだ。
アルファヌの身体的特徴は、長身で透き通るような白金の髪と馬のような尾、そして黄金色の瞳を持ち、その身体は飛沫を纏っている。しかし、床に眠る女の髪色は違う。何か別の血が雑ざったアルファヌなのだろう。
蜀台の灯りが微かに揺らめくと、光の届かぬ暗がりから、靄のように長身の人影が現れた。黒い長衣に身を包み、その袖から伸びる骨ばったミイラのような手は、三巻の巻物を抱えていた。
黒い長衣の者は、死んだように横たわる女の前に立つと、骸骨のような手で被っていた頭巾を払い除けた。白髪に染まった脂気の無い長い髪、落ち窪んだぬらりとしたガラスのような緑青の瞳、こけて骨ばった輪郭、乾いてがさついた頬はまるでヒビでも入ったかのように生気がなく、その様相は亡者そのものであった。誰が見ても、この者がアルファヌだとは信じまい。
アルファヌは水の精霊をその誕生の起源に持つと云われ、水の精の伝説のように、同胞を大切にし、裏切りは許さず、そしてとても強い結束力を持つ種族であった。
遥か昔、霊妙なる種族として人々から敬われたアルファヌは、飽くまでも物腰は柔らかく、そして気高く美しかった。この世の美しさと孤高の魂の顕れと云われた存在であった。しかし、黒い長衣のアルファヌには、その一切合切が損なわれていた。
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