聖女にされそうなので逃亡します(※探さないでください)

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聖女にされそうなので逃亡します(※探さないでください)

 ああ、そうだ。猫を飼っていたんだ。  シャルロッテとしてではない。月永沙織のときだ。  アパートの近くでうろうろしていた闇夜に溶けそうな艶やかな毛並みをもつ黒猫。普段は動物に見向きもしないのに、あのときだけは目が合った瞬間、なにか運命のようなものを感じた。  相手もそうだったのか、こちらに警戒心もなくすり寄ってきた。抱き上げても抵抗ひとつみせない。まるで、そうしてもらうのを望んでいたかのように。 『ま、魔女の使い魔が黒猫なのは定番だしね』  一緒に暮らし始めたものの猫が沙織に心開くことはあまりなかった。窓の外をよく眺め、餌のときだけ呼ぶとやってくる。これではどちらが主人だかわからない。  けれど眠るときは、そっとベッドに入ってきてそばで体を丸めていた。その存在に癒されていたのも事実だ。名前はたしか――。
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