聖女ではないと証明するため派手に呪ってみます

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 鼻を鳴らした後で首を横に思いっきり振る。 「どうであれ聖女扱いは御免よ!」  しかめ面で苦々しく返し、続けて感情の矛先を再び悪魔に向ける。 「だいたい、パンターが最初から指示した場所まで移動させてくれたら、こんなことにはならなかったんじゃない! なにこの中途半端な場所は。……っていうか、ここはどこ?」 「(かしま)しい奴だな。人のせいにするな」 「人じゃないじゃない」  シャルロッテの軽口にも珍しくヘレパンツァーは言い返さない。  城から脱出する際、シャルロッテが魔女として暮らしていた家を目的地としたが、追手の早さからすると、どうやら城からすぐの町のようだ。  正確な移動魔術は高度とはいえ、いつものヘレパンツァーなら難しいものではない。よってこの状況は彼にとっても不本意らしく、苦虫を噛み潰したような顔になる。  ふたりは、どこかの建物の玄関口の冷たい段差に腰を下ろしていた。  天井が高く外部と隔てる木製の大きな扉を前にし、背には内部に続くさらに大きな扉がある。個人宅にしては造りも大きさも妙だ。 「教会だったりして」 「さすがに俺もそこまで馬鹿じゃない」  冗談混じりのシャルロッテにヘレパンツァーが素早く切り返す。そのときだった。 「誰だ?」  外からではなく中の扉が開き、声がかかる。とっさに男女どちらのものか判断できない。  声には幾分か幼さが残り、すぐさまうしろを振り向けば、そこには十二、三才くらいの少年が眉をつり上げて感情を露わにしていた。  無理もない、シャルロッテは不法侵入者であり不審者だ。ヘレパンツァーはすぐに姿を消す。それを見て、少年は明るい茶色の前髪から覗く青い瞳をさらに丸くした。
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