聖女ではないと証明するため派手に呪ってみます

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「その設定、もらったぁぁぁ!!」  意表を突く力強い声に、少年は思わず涙ぐみそうになった。彼の祖父は卒倒しそうになる。状況に頭がついていかない。言えるのは、目の前にいる魔女がひどく上機嫌だということだけだ。  シャルロッテは、手のひらを上に向け鼻歌混じりにひとり恍惚の表情を浮かべる。 「あやうく聖女にされかけているのをここで汚名返上といきましょう。魔女の呪いで見る者を不幸にする? 最高じゃない! うまく乗っかれば恐ろしい魔女として私の名を広める手立てにもなるし」 「な、なに言ってんだよ、お前は!」  不信感溢れる眼差しをシャルロッテに向ける。その視線をかわし、彼女は誰もいない天井へと呼びかけた。 「そういうわけでパンター。ちょっと付き合って」  すると誰もいない空間から黒い存在が現れる。人間の姿をしているが、濡羽色の艶やかな髪に血の気のない白い肌、おまけに炎を彷彿とさせる赤い瞳は美しさを通り越して恐ろしさを抱かせる。  彼が人間ではないのは一目瞭然だ。  少年と老人は失神しそうになるのを必死に耐えた。悪魔は彼らを見ず、軽やかに地に足をつけると自分より小柄な魔女を見下ろす。 「お前はまた、くだらないことに首を突っ込んで……」 「いいじゃない。どうせすぐに身動きは取れない状況だし」  言いきって女の視線が少年に向いた。今までの比ではないほどに彼の心臓が跳ね上がる。 「私は紫水晶の魔女シャルロッテ。その呪いの話、詳しく聞かせてくれない?」  まるで昨日の夕飯でも尋ねるかのごとく陽気な口調だ。少年は一瞬たじろぎ祖父と視線を交わらせる。
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