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ヨーゼフはわずかに視線を落とした後、黙りこくった。もうどうにでもなれといったやさぐれた気持ちが彼の思考を停止させていた。それほどに一連の事態は彼に精神的疲労をもたらしている。
少年は祖父に休むよう促し、その場に残った。そしてゆるゆると口を開きシャルロッテたちに事情を話しはじめる。
彼の名前はヨハン。祖父ヨーゼフは主に絵画を扱っている美術商だった。他に美術品の修繕なども行い、ヨハンも祖父の元で修行している。
芸術に関心のある貴族などを相手に商いし、作家の噂や才を聞きつけては異国でも足を運んで美術品の発掘、鑑定、修復などを行う。
ここはヨーゼフの趣味と商売を兼ねた画廊だった。王都なのもあり、ヨーゼフの腕も確かでそれなりに商売相手には困らずにいた。
一年ほど前、祖父が『すごい絵を見つけた』と興奮気味に持ち帰った絵がある。
縦横ともにヨハンが両手を広げたほどの大きさで、はっきりとしたタイトルも作者も不明だが、若い恋人同士が抱き合っている姿を大胆に描き切っている。
煌びやかな額縁も目を引き画廊に飾れば、たちまち人々の間で話題となった。奇抜な内容や技法を凝らしたものでもなければ、作者が有名というわけでもない。
しかしその絵は多くの人を魅了し、何人もの身分ある者が購入を申し付けたが、ヨーゼフ自身もこの絵に魅了されたのか、首を縦に振らなかった。
やがて内容の影響か、この絵の前で愛を誓い合った者たちは永遠に結ばれるというまことしやかな噂まで流行りだしたのだ。
おかげで画廊は繁盛し、結婚前のカップルが訪れる定番の場所となりつつあった。
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