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ライマーとヴァネッサの結婚は領地に住む人間にとっても楽しみなものだった。
そこに不穏な影が落とされたら、やはり原因をなにかのせいにしようとするのは人間の性だ。ましてや当人のライマーが絵の呪いのせいだと主張しているのなら。
「……じいちゃんは完全に悪者扱いで」
弱々しくヨハンは呟く。話を聞いたもののシャルロッテとしてはやはりどうしても絵のせいだとは思えない。ましてや呪いなど。
乗っかろうとしたことをやや後悔しながら、シャルロッテはため息をついた。それを見て、ヨハンは悔しげな面持ちでうつむく。
「お前の言う通り、ヴァネッサさまが体調を崩されているのを、どうしてライマーさまが絵の呪いだって言いだしたのかわからないんだ。なにか理由があるのかもしれないけれど、もし本当に絵を観たせいで床に臥せているのだとしたら……」
呟いた言葉は息と共に空中にさっと溶ける。日が傾きはじめ、窓から差し込む光が伸びていく。玄関に窓の数があまりないからか外よりもここは薄暗く、ひんやりとした空気が足元を伝った。
「絵の呪いは存在するかもしれないってこと?」
シャルロッテの追及にヨハンはとうとう黙り込んだ。しばしの沈黙が訪れ、魔女の口から次の言葉が漏れる。
「とりあえず、その絵を見せてもらえる?」
ヨハンはぱっと顔を上げ、魔女とその傍らに立つ悪魔を見つめた。
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