聖女ではないと証明するため派手に呪ってみます

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 今は額縁もなく剥き出しの状態だが、男性が女性を引き止めるかのように情熱的に抱きしめているといった内容だ。愛の抱擁というよりは、どこか緊迫めいたものを感じさせる。  暗い森を背景にすることで人物を一層引き立たせ、別れを惜しんでいるのかと思わせる必死さは、彼らの背負うものをいろいろと想像させる。  描かれている主役ふたりの格好からは、平均的な農夫と村娘といった身分だろう。貴族よりも一般大衆により多く受け入れられるのも納得だ。  シャルロッテとヘレパンツァーはしばし、その絵を凝視する。ヨハンは洋燈を持つ手を高く上げ、絵を照らしながら判定を待つかのごとく緊張した面持ちで成り行きを見守った。  ややあってシャルロッテの唇が小さく動く。 「……どうしよう、なにも感じない」  愕然とした声色はその場には似つかわしくない気の抜けたものだった。シャルロッテは大袈裟に自身の額に手をあて、わざとらしくよろめく。 「ただ男女が抱き合っているだけじゃない。これを見るために一般市民はもとより貴族や王家に関わりのあるカップルまでやってきて、永遠の愛だの、別れないだのざわめき合っているわけ? 理解できない」 「それはお前が愛や恋に無関心だからだろう」  すかさず返したヘレパンツァーにシャルロッテはふくれ面になる。 「なに、パンターには、愛だの恋だのわかるわけ?」  絵から視線をはずさないままヘレパンツァーは口角を上げ、艶めかしい表情を浮かべる。
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