聖女ではないと証明するため派手に呪ってみます

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「人間が一番愚かで醜くなるのは愛や恋が絡んだときだぞ?」  今にも取引を持ち掛けそうな悪魔の笑みだ。この魅惑の雰囲気で何人と契約を交わしてきたのかは定かではない。シャルロッテは興味を示さず尋ねる。 「あー、そうですか。で、この絵になにか憑いてたりする?」 「それは感じないな。俺より高位の者ならわからないが、そうそういないだろうし、怪しげな雰囲気はとくにない」  一番、怪しいやつがなに言ってるんだ!  喉まで出かかった言葉をヨハンはぐっと飲み込む。 「はー。やっぱり呪いなんて都合よくないわよね。つまんないの。はい、解散、解散!」 「ちょっと待てよ!」  そこでようやくヨハンが声をあげ、結論づけるシャルロッテに噛みつく。シャルロッテは憐みを含んだ目で少年を見つめた。 「残念だけれど、これが呪いの絵なんて言われたのはあの男の気まぐれよ。その婚約者が回復したら、きっと」 「でもっ! 気まぐれで呪いなんて言うか? 実際、呪われているみたいにうちだってこんな状況に追い込まれて……」  遮って放たれた言葉は狭い倉庫の中を木霊する。静けさを取り戻したタイミングで洋燈の炎がジジっと音を立てるのがやけに耳についた。  気まずさと沈黙を払拭すべく、ヨハンが弱々しく口を開く。 「……たしかに、呪いだって証拠はない。けれど……」 「呪いではないと言いきる根拠もないわけね」  返ってきた凛とした声にヨハンは反射的に顔を上げる。茶化す雰囲気もなく紫の瞳がじっと自分を捉えていた。
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