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外の暗さが濃さを増した頃、部屋にノック音が響きヘレパンツァーは身を起こした。シャルロッテは相変わらずキャンバスに向きあっている。
顔を出したのはヨハンで、ふたりに差し入れをとパンと温かいミルクをトレーに乗せてやってきた。ところが、すぐさま彼は目を剥き、顔をひきつらせる。
「な、なんだよ、それ。お前、呪いの絵でも描いたのか?」
「え?」
ヨハンの指摘にシャルロッテは意外そうな面持ちだ。ヘレパンツァーが確認すると、キャンバスは全体的に黒で塗られ、なにやら奇妙な生き物が描かれている。
かろうじて四足歩行をしている獣だと認識できるが、恐怖よりも不気味さが勝る。デッサンはめちゃくちゃで色使いも最悪だ。
深緑に土留色が合わさった混沌さは見る者を不安に陥れそうだ。
「呪いの絵なんて言われてるけど、本物はやっぱり恐ろしいんだな」
畏怖の眼差しを向け、ヨハンはトレーを机の上におくとさっさと部屋を後にする。呆気にとられていたシャルロッテは宙にぽつりと呟く。
「……真面目に描いてたつもりなんだけど」
「なら、たいした才能だな」
すかさず小馬鹿にした悪魔に対し、魔女は恨めしげな視線を送った。
「ありがとう。これ、昔飼っていた猫なの」
まったく予想していなかった答えにヘレパンツァーは赤い目を大きく見張る。改めて絵をまじまじと眺めるが、どう見ても猫には見えない。
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