聖女ではないと証明するため派手に呪ってみます

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 召喚したい悪魔を描いたと言われる方がよっぽど信じられる。これはもしかするとシャルロッテの腕ではなく自分の目を疑うべきなのか。それほどにシャルロッテは自信満々だった。  昔といっても猫を飼っていたのは月永沙織のときだ。相変わらず名前は思い出せないが、常にそばにいた存在を懐かしく感じる。  シャルロッテは立ち上がって移動しソファに座ると、ヨハンが持ってきたパンに手を伸ばす。その後を追うようにヘレパンツァーはシャルロッテの前に腰を落とし、わざとらしく話を振った。 「で、どうするつもりだ? 意図があるのかないのかは知らんが、男が適用なことを言っているだけかもしれないぞ?」 「ま、その可能性は大いにあるわね」  シャルロッテはパンを置き、暗くなって洋燈に照らされた室内のあちこちに視線を巡らせる。  ソファをはじめとする机などの調度品はどれも国外から取り揃えたものらしく異国情緒が漂う。  机の脚は仰々しく動物を(かたど)り、敷かれている毛皮は獣の形がありありとわかる。  どれも年代物でそれ相応の品だ。さすがは美術商というべきか。ヨーゼフの腕は確からしい。 「まずは呪いだって大騒ぎしている彼に会いに行きましょうか。結果的に絵は関係なくても面白い話が聞けるかもしれないわ」  そこでようやくシャルロッテがヘレパンツァーに顔を向ける。 「仮に呪いはではなくても、愛する婚約者を心配するあまり寝不足になっている彼の言い分を聞いて、少しは愛や恋について学ばせてもらうわ」  とびきりの笑顔に対し、その奥はなにやら黒い。シャルロッテの言い回しには覚えがある。
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