聖女ではないと証明するため派手に呪ってみます

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「ただいまー」  画廊に戻ってきたシャルロッテは、誰に告げるわけでもなく癖になっている口調で戻りを告げた。ヘレパンツァーは悠々とソファに身を預けくつろいでいる。  鮮血を彷彿とさせる真っ赤な瞳は帰還者をまっすぐに捉えた。 「傷心中の次期領主様はどうだったんだ?」 「傷心過ぎて話すどころか会うことさえ叶わなかったわ」  シャルロッテは軽くまとめていた髪をほどき、ヘレパンツァーの横に腰を落とす。黒衣の裾がひらりと翻り、伸びる足を無造作に組んで背もたれに体を預けた。 「振られたくらいで、そこまで腑抜けになるものなのね。次期領主が情けない」 「相手の沈みようも相当なものだったがな」  なにげないヘレパンツァーの言葉にシャルロッテは勢いよく身を起こす。 「パンター、彼女に会いに行ったの?」  シャルロッテの問いかけにヘレパンツァーは妖しく笑った。赤い目が細められ機嫌よく答える。 「美人だと評判らしいからな。会って損はない」 「まー、現金」  言葉とは裏腹にシャルロッテも笑顔になる。自分が指示せずとも、なんだかんだ言って意に添う行動をとるのだから憎めない。  明確な名前を出さずともふたりが指している女性は同じ、ライマーの婚約者だったヴァネッサだ。 「で、どうだったの?」  期待に満ちた目でヘレパンツァーの回答を待つ。しかし本人は至極つまらなさそうな面持ちだ。 「言った通りだ。彼女も落ち込んで部屋に引きこもっていた」
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