聖女ではないと証明するため派手に呪ってみます

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 普通の人間には悪魔が見えない。ヘレパンツァーが屋敷の中で見かけたヴァネッサは物悲しそうな表情で自室の椅子に腰掛け、祈るように体を丸めていた。  ヘーゼルブラウンの長い髪に翡翠色の瞳は美しく、より一層の切迫さがひしひしと伝わる。話を黙って聞いていたシャルロッテだが、思わず眉をひそめた。 「振ったのは彼女の方じゃないの?」 「そこまで知らん。しかし彼女の父親はなにやらご立腹の様子だったぞ」  シャルロッテは腕を組み、考えを巡らせる。昨日のライマーの態度からして、あの後に彼から婚約破棄を申し出たとは考えにくい。  ライマーが振られたと思い込んでいたがヘレパンツァーの話を聞く限りそう単純ではないのかもしれない。  どちらかの親の意向かしら?  身分が高ければ高いほど本人の意思そのものより親の意見が尊重されるのは公爵令嬢だったシャルロッテにも理解できる。  そのとき無遠慮にドアが開いた。 「お、シャルロッテ。どこに行ってたんだよ」  顔を出したのは(かや)色の前掛けをしたヨハンだ。所々汚れているのは、絵画の整理と修復作業をしていたからだろう。  元々の適応力の高さか、慣れとは偉大でシャルロッテたちに対する恐怖はすっかりなくなっている。 「噂の次期領主さまのところよ」  シャルロッテの端的な回答にヨハンは顔色がさっと変わり、勢いのまま身を乗り出してきた。 「本当にライマーさまのところへ? それでご本人には会えたのか? 絵のことはなにか」 「落ち着きなさい。話すどころか会えてさえいないわ」  冷静にヨハンの言葉を遮ると、彼は勢いよく肩を落とした。 「そう、なのか」 「ねぇ」  ヨハンに落胆させる暇もなくシャルロッテは投げかける。
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