聖女ではないと証明するため派手に呪ってみます

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「ふたりは、どういった経緯で婚約する流れになったの?」  婚約破棄をした原因は定かではないが、代々ここに居を構えるヨハンなら、そこら辺の事情は知っているかもしれない。案の定、彼に戸惑いはなかった。 「ライマーさまとヴァネッサさまのお父上同士がご親戚なのもあって、おふたりは幼馴染みなんだ。自然と惹かれあい、物心がついたときから婚約なさっていたらしい」  幼い頃からお互いを一途に想い合った末の結婚という筋書きは、ロマンス小説の王道さながらだ。  身内だけではなく民衆を巻き込み、期待と祝福に輪をかけていたのも納得だ。逆に言うと当人だけの話ではすまない背景がある。 「それはまた気の毒ね」 「だよな。なんで別れることになんか……」  噛み合っているようで、微妙にずれているふたりをヘレパンツァーは口を挟まずにただ傍観する。一族でこの辺りの実権を握るためにも、ライマーとヴァネッサの婚約は親族にも望まれていたものだ。  やっぱりあの絵のせいなのかと頭を抱え出すヨハンにシャルロッテは話題を変えた。 「画廊はどうなの?」  自分のペースで話を進めるシャルロッテにヨハンは物言いたげな面持ちになる。だが、いちいち指摘してもどうせ相手は変わらない。諦めの境地でとりあえず質問に答える。 「相変わらずの閑古鳥(かんこどり)さ。こんなことなら、あのとき売っちまえばよかったんだ」 「引く手数多だったみたいね」  ヨハンの独り言に水を向けると彼は大きく頷いた。
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