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「まぁな。ちょうどライマーさまたちが見に来る前にさ、売ってほしいって言われたんだよ。しかも同じ人に何度も」
「物好きな人間が多いのね」
またもやヨハンの機嫌を損ねると思われた。ところがヨハンは同意でも否定でもない曖昧な表情になる。
そんな彼に今度はシャルロッテが訝しげな視線を送った。それを受けヨハンは記憶を辿りながら語りだす。
「たしかに……印象に残ってる。珍しく若い女の人だったんだ。じいちゃんも不思議がっていた。こういう絵を欲しがるのって金持ちの年配者とか、貴族に仕える人間とかが多いんだけれど……」
そういった事情はなく、女性は個人的に欲しいという雰囲気だったらしい。
「やけに切羽詰まった雰囲気だった。興味や話題性というよりあの絵を手に入れないと心底困るっていった感じで……」
わずかに罪悪感を抱かされたが、ヨーゼフはいつも通り断った。なによりライマーとヴァネッサが絵を見に来るのが決まっていたのだ。
ただ、ふたりが見終わった後だとしても、あのときのヨーゼフは絵を手放すつもりはなかった。
実際にライマーとヴァネッサが画廊を訪れた後、絵の付加価値はさらに上がり、験を担ぐ人間も含め観覧者は右肩上がりだった。譲ってほしいという人間も。
ところが、しばらくしてヴァネッサが寝込んでいるという事実と共にライマーがあの絵の呪いのせいだと言い出した。
蜘蛛の子を散らすように画廊から人は消え、ライマーの発言に尾ひれがついて事態は一変する。
おかげであの絵画の扱いは天国から地獄に突き落とされたと言っても過言ではない。
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