聖女ではないと証明するため派手に呪ってみます

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 内心で感心しつつ、どうしてこれが絵描きに生かされないのかまったくもって謎だ。ヘレパンツァーはシャルロッテの横顔を見つめた。  一見すると子どもが夢中で絵を描いているようだが、その表情は冷たさを伴う魔女そのものだ。  あっという間に魔法陣は完成し、それを見てヘレパンツァーは内容を理解する。 「移動魔術か」  シャルロッテは立ち上がると大きく頷き、満足顔で足元の魔法陣を見下ろす。 「そう。ここはやっぱり噂の元凶であろう次期領主さまに会ってみないとね」  今回の事態はライマーとヴァネッサの婚約破棄よりもライマーの発言が招いた部分が大きい。 『あの絵は呪われている』  そう言いだした理由はなんなのか、どこまでが真実なのかは定かではない。シャルロッテの唇は弧を描く。 「呪いついでに本物の悪魔を見せてやろうじゃない」 「だが、移動術は魔力を使うし、かなり高度だぞ」  だから城からの移動はヘレパンツァーを頼った。結果は、残念ながら上手くいかずこの現状を招いているわけだが。  実体を消して思い描く場所に瞬時に移動するのは骨が折れる。そこはシャルロッテも見越していた。 「だから彼の家を訪れた際に、こっそり印をつけてきたわ」  シャルロッテがライマーの館を訪れた本当の目的は場所を正確に把握し、彼の部屋に見当をつけるためだ。  メイドは『旦那さまに口をつぐむよう言われておりますので』と言った。つまり婚約破棄は事実だが、なにかしら他人には言えない事情があるということだ。  シャルロッテはヘレパンツァーを近くに呼び、右手を魔法陣の上にゆっくりと滑らせる。細く長い息を吐いた後、彼女は落ち着いた声で唱えだす。 『【パルジファルの手に落ちたのはバジリスクの血か、涙か。剣も杯もいらぬ予定調和を予見し者よ、嫋々(じょうじょう)たる闇に我らを運べ】』
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