聖女ではないと証明するため派手に呪ってみます

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 目星をつけた部屋に向かって結んだ印と指が同じ動きをすると、周りの空気が震えだし視界が歪む。次の瞬間、彼女は薄暗い部屋の中にいた。  広々とした空間だが、カーテンが閉め切られ太陽の光を遮っている。明らかにヨハンの画廊とは違う雰囲気に、シャルロッテは思わず指をパチンと鳴らした。 「やった、大成功。どう、パンター?」 「距離がそこまでないし、事前に印をつけていたならそう難しくもないだろ」  すげない返答にシャルロッテは眉をひそめる。 「自分が失敗したからって、辛口採点ね」 「誰だ!?」  口を尖らせるシャルロッテに男性の声が飛ぶ。ベッドの方に目を向けると、横になっていた人物が体を起こし怯えた表情でこちらを見ていた。  ライマー・レーンスヘル。長めのダークブロンドの髪を振り乱し、顔色は相当悪い。昨日、画廊で出会ったときとはまったく印象が異なる。今は覇気も威厳もない。 「お、お前は昨日画廊で……」 「はーい。次期領主様。ごきげんよう」  シャルロッテが手をひらひらと振る。ライマーは途端に顔を歪めた。 「ど、どうやって入ってきたんだ!? その隣のやつはなんなんだ!? 悪魔! やっぱり悪魔の仕業だったのか!」  突然現れた侵入者たちに恐怖混じりに罵声を浴びせる。妖艶な美しさをもつ男は、この世の者とは思えない赤い瞳を有し、あきらかに人間ではない。その隣の黒衣に身を包んだ女は不敵に笑う。 「いいわねー。その反応。なんか久々! やっぱり魔女は恐れられてなんぼよね。最近、ちょっと感覚が麻痺してたわ」  シャルロッテは恍惚の表情を浮かべる。これは自分を印象づけるチャンスだ。
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