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一ノ別レ 天才と秀才
「はじめまして!!リィンカ・ニシヨンといいます!
よろしくお願いします!!」
黒板の前に立つ青年のはきはきとした自己紹介に教室がざわつく
彼の名乗ったニシヨン家とは、天才魔術師を数多く輩出してきた名門
その中でも彼、リィンカは歴代最高の実力の持ち主であり、魔術師で知らない者はいないと言われるほど有名だ
最近、この辺りに引っ越して来たと噂はたっていたが
(よりによってこのクラスに、最悪だ)
「ニシヨンはこの街に来たばかりだから、まだわからないことがあるだろう
わからないことはそこのエリクシルに聞くといい」
「は?!どうして私が…」
「教えてやるくらいいだろ?何か問題があるのか?」
「問題しかありませんよ
私じゃなくても、他に適任はいくらでもいるでしょう
って、なんですか?
人の顔をジロジロ見て」
「やっぱりそうだ!!セイデル・エリクシルさんだよね?!!
やった!たまたま引っ越して来たこの街で、君に会えるなんて
僕はなんて幸運なんだろう」
「は?ちょ…、ちょっと待ってください
私はあなたに会ったことは一度もありませんが?
どういうことか、説明してください」
「君みたいな有名人に会えたんだよ?
嬉しくない方がおかしいってば」
「私が有名人?
一向に話が見えてこないんですが?」
「本当に有名なんだよ?
僕の家族や親戚の人達や、知り合いの人達も、君のことを知らない人はいないくらいなんだ
”神童”とか”天才”って呼ばれてるんだ」
「あぁ…なるほど、そういうことですか
一ついいですか?」
「どうしたの?」
「私は、天才などというものではありません
私のこの力は、努力して得たもの
あなた達のように、元から備わっていたものではありません
そこをはき違えないでいただきたい」
「えっと……ごめん、怒らせちゃったのかな?」
「怒ってません
ただ、間違いを正しただけです」
「おい、エリクシル
そんな邪険に扱うことはないだろう
ニシヨンはお前を……」
「先生は黙っててください」
「ったく…ニシヨン、気にしなくていいからな
あいつは誰に対してもあぁなんだ」
先程までリィンカの登場にざわついていた教室は、いつの間にか悪意の籠った静かで冷たい空間へと様変わりしていた
(また始まったよ) (あいつのあぁいうところ嫌いなんだよね)
(天才か、秀才かの違いなんてどうでもよくね?)
悪意の方へ冷たい一瞥を向けると、声は収まり、集まっていた視線もばらばらの方向へ逸れる
いつも通り、すべていつも通りの状況だ
(どうせあいつも同じだろう)
そう思って、リィンカの方に視線を戻す
しかし、リィンカは悪意どころか、不安と申し訳なさが混じった表情で、こちらを見ていた
「どうしてそんな表情をするんですか?」
あまりにも予想外なリィンカの表情に戸惑い、思わず聞いてしまいそうになった
しかし、すぐに思い直して喉元まで来た言葉をしまった
どうせ一時的な感情だ、すぐにあいつらと同じようになる
そう言い聞かせみたが
初めて向けられた視線、初めて向けられた感情に戸惑い、期待する心が奇妙な感情を呼び起こす
それをリィンカに気取られぬよう、窓の外に視線を逸らした
リィンカは何かを言いかけていたが、視線を逸らされたことによってあきらめたのか、自分の席に座った
いつも通りに始まり、いつも通りに終わるはずだった日々は、リィンカの登場で、今日終わりを告げた
そのことにセイデルが気づくのはもう少し後のこと
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