四ノ別レ 再会

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「そなたが、時の旅人か」 「時の旅人? 国王陛下、いったい何のことでしょうか? 私は一介の魔術師にすぎませんが?」 「では、その指輪はどう説明するのだ? 国中、いや世界中を探してもその指輪をしているのはそなただけだ」 「御冗談を、陛下 このような指輪をつけている方くらい、この国にも何人かいらっしゃるでしょう そのような状況で、なぜ私が時の旅人だと思われるのですか?」 「各地に伝わる伝承に基づいて作成した似顔絵も存在している それとそなたが非常によく似ている これで言い逃れはできまい、いやさせぬぞ 素直に認めるんだ、そなたが時の旅人であると」 数十の季節の巡り、幾千の命の巡りを見てもなお、旅に終わりは見えない それどころか、いつの間にか妙な呼び名が付き、各地であがめられるようになってしまった 何も理解していない、愚かな信仰は一国の王すらも動かす 国王直々に王宮へ来るようにお達しが来た 断るとより面倒なことになりかねないので、渋々王宮へ赴く 城門をくぐってから、すれ違う全ての人から向けられる好奇の視線 学生時代を思い出させるその視線に早くもうんざりしていた 王宮の空気はさらに格式ばった窮屈な空気で、かつて育った生家を思い出させ、より気分を苛立たせる 「時の旅人よ、そなたの真の名は何と言う?」 「セイデル…、エリクシルといいます」 「では、エリクシル殿 そなたは、不老不死の魔術を完成させた、偉大な魔術師と聞く その魔術はこの国の安泰の為に必要不可欠なものだ その魔術をこの儂に教えてはくれぬだろうか?」 国の為ともっともらしい理由をいっているが、それが嘘であることくらい誰だってわかる 良い面だけを捉え、汚い欲望に強い嫌悪感と怒りが湧いてくる それを表に出さないように、絞り出すように声を出す 「……お断りします」 「なぜだ?ただ教えてくれればいいのだ そうすれば、この国は未来永劫繁栄し続ける そなたはこの国の高官として、豊かな生活を保障してやろう」 「それでもできません、陛下 私には、豊かな生活を捨ててでも成さねばならない目的があるのです その為に、ここに長く留まるわけにはいかないのです それに……、陛下は一つとても大きな勘違いをなされています」 「なに? 儂が勘違いだと? 一体どういうことだ、申してみろ」 「私は、不老不死の魔術を完成などさせていません これは……昔に受けた呪いです この世で最も残酷な…呪いです」 そう訴えかけるセイデルの悲痛な表情と声に、その場の皆が戸惑いの色を隠せない 困惑してただただセイデルを見つめる者 近くの人間とヒソヒソと何かを言い合っているもの その場にいる全ての人間が、セイデルの言葉が嘘か真か判断をしかねている その場を見回し、憐れむような表情でため息をつき、セイデルは言葉を続ける 「陛下、そして皆さま、私の言葉に偽りなど一つもございません 永遠の命などより大切なものはたくさんあります どうか、それらを大事になさってください 私からは以上です」 「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」 「まだ、何か? なんといわれても、私からは何も教えることなどできません」 「不老不死の魔術に関してはわかった だが、そなたが偉大な魔術師であることは変わらない 儂の息子の教師、いや王宮の専属の教師をやってはくれないか? 不老不死による繁栄は無理でも、そなたのように優秀な魔術師に教えを受けて育てば、それこそ非常に優秀な王が今後もこの国を治め続けることができる そうすれば、不老不死の魔術などなくともこの国は繁栄し続けるだろう? もちろん、王宮内での生活も保障しよう」 「それもお断りさせていただきます 先程も言った通り、私には目的があるのです もうよろしいでしょうか?」 「そこをどうか、頼む せめて儂の息子の教師として、せめて儂の在位中だけでもいてくれぬか? そなたの教えを全て書記官に記させる そうすれば、長く留まらずともよいだろう? どうだ? この条件で飲んではくれぬか?」 「どうせ……、いいというまで食い下がり続けるんでしょう 仕方がありませ、引き受けましょう ただし、陛下の在位中だけです それ以上は、絶対に、何を言われようと、私はここを去ります」 「うむ、わかった約束しよう おい、誰か! リィンカを呼んで来てはくれぬか?」 「は? へ、陛下今なんとおっしゃいましたか?」 「何を驚いておるのだ? 儂は息子のリィンカを呼べと……」 一度目は聞き間違いかと思った しかし、国王は確かに『リィンカ』と言った (リィンカ? まさか、彼なのか? いや、そんなわけ……きっとただ同じ名前なだけだそんなわけない) 質問の意図が読めず、困惑している国王をよそに考えていると 背後から聞き覚えのある声が思考を打ち破る 「父上、お呼びでしょうか?」 「リィンカ、そこにいるお方はセイデル・エリクシルという偉大な魔術師様だ これからお前の教師として教鞭をとっていただくことになった」 「そうなんですね、リィンカといいます! エリクシルさ、これからよろしくお願いします!」 「そんな、そんなまさか……」 「? どうかしましたか? 僕の顔に何かついてますか?」 太陽のように明るい笑顔も うるさいくらいに溌剌とした声も どこまでも真っ直ぐ見つめるその目も 全部、全部、まごうことなきリィンカそのものだった
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