1.お弁当を食べましょう!

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「それでは、『とっとと幽霊を追い出そう作戦』を始めたいと思います!」  その日の夜。  私はリビングでホワイトボード片手にそう言った。 【おい。その幽霊ってのはここで全部、お前の話を聞いてるぞ】 「さて、この厄介な幽霊はさらに厄介なことに記憶喪失です」 【もはやお前は誰と話してるんだよ。不気味だよ】 「そんなわけで、とりあえず名前をつけることにしました」  私はホワイトボードにマジックでこう書く。      命名 ごんべえ 【だっさ! なんだその名前!】 「『名無しの権兵衛』よ。知らないの? そのほうが、だっさ!」 【知ってるからこそだっせえんだよ。安直すぎる】 「じゃあ、ポチ」 【今考えたろ。そして悪気があり過ぎる!】 「全国のポチに謝りなさい」 【全国のポチって犬だろ。人間につける名前じゃねーだろ】  幽霊の言葉に、私はわざとらしいほどのため息をつく。 「じゃあ、『アブソリュート・ゼロ』とか?」 【完全に中二病じゃねーか! そして長ぇだろ!】 「それなら『コフィン』? それとも『カタストロフィ』?」 【さっきから、何気に幽霊ディスってねーか】 「幽霊ってゆーか、あんたのことはディスってるかな」  私はそう言ってから、ホワイトボードを軽く叩く。 「じゃあもう、ごんべえに決定」 【そのほうが、いくらかマシだ】 「よーやく決まった」  私はソファに横になり、ため息を一つ。  壁の時計に視線を向ければ、時刻は午後七時近い。  やっぱり今日中に成仏させるのは、難しそうだなあ。 「晩ご飯、どうしようかな」 【家族はいないのか】 「両親共に昨日から海外出張で、十日間は帰って来ない」  いつものように両親が置いていってくれた多めのお金があるから心配はない。  相変わらず、娘に優しいな。ありがたいな。  そこでふと思い出してごんべえに聞く。 「ねえ、家族がいるってことはなんとなく覚えてるのよね?」 【覚えてるってゆーか、多分いるんだろうって思っただけ。年齢から考えても】 「年齢?!」  私はがばっと勢いよく体を起こす。 「年齢がわかるの? ってゆーか、思い出したの?!」 【いや、姿は鏡に映らないけど、自分の手とか足とかは見れるだろ。それから推測するに中学生とかそんくらいかな、って】 「なーんだ。推測かあ」  私はそう言うと、またソファにどさりと寝転ぶ。
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