1.お弁当を食べましょう!

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【なあ、もしかしてお前って、友だちいないの?】  次の日の一時限目の休み時間。  ごんべえが、そう聞いてきた。  その口調は、遠慮がちだとか心配をしているとかではなく、完全に面白がっている雰囲気だ。   私は窓に視線を向けながら、声のトーンを落として質問返しをする。 「なんでいないと思ったの?」 【朝から誰とも口を利いてないから】 「そういう日もあるんじゃない? 仲良い子が休んでるとか」 【その割には随分と一人に慣れているように見えるけど】 「黙れごんべえ。それ以上言うと名前を『エターナルコフィン』に変えるからね」 【永遠の棺、って……。趣味悪いな】 「私だって、先輩と話とかするし」 【幽霊とかその関係者ではなく?】  ごんべえの質問に、私は「うっ」と言葉に詰まる。  こいつ、鋭いな。  どう反論をしようか考えていたら、前の席の女子が「放課後カラオケ行こうよー」と話している声が聞こえた。  そう言えば、昨日、彼女は幽霊を見た、と言っていたっけ。  男の子幽霊を学校で見たって。  もしかして、ごんべえのことなんじゃないの?!  彼女に聞けば、ごんべえのことが少しでもわかるかもしれない。  いや、少しなんかじゃなくて、結構な情報が手に入れば、ごんべえを今日中に成仏させるのも可能かも!  これでのびのびと誰かに遠慮することのない、そして普通の食欲の生活が戻ってくる!  お風呂やトイレや着替えを目を閉じてしなくても済む!  私はぐっと拳を握り、前の席の女子に勇気を出して声をかける。 「あのー、ちょっとお聞きしたいんですが」 【クラスメイトに話しかけるっていうより、見知らぬ人に道を尋ねる聞き方じゃねえか】  ごんべえに大笑いをされつつ、私は彼女の肩を軽くたたく。 「え~! なになに~?」  振り向いた女子は、かなりの美少女だった。  バッチリと化粧をしていて、腰まで届きそうなほど長い髪の毛は栗色でふわふわとカールがかかっている派手な雰囲気。  まあ、ものっすごい校則違反だけども。  でも、髪をくりくりといじる指にはネイルはしていなくて、短く切ってある。  そんな彼女の名前は知らない。  入学して二ヵ月経つのに、クラスメイトの名前どころか顔も知らないや……。 「あの、昨日、幽霊を見たと言ってましたよね?」 「あー! うん。見た見た! 超怖かった!」 【俺、別にこいつのこと、驚かしてないけど】 「その幽霊の外見って覚えてます? 男の子っていうこと以外に目立つ特徴とか」 「もうね、すっごい怖くて! アリス、死ぬかと思った~。音楽室飛び出したもん」 【殺さねーよ。こいつ、うぜえしうるせえ】  ごんべえよ、ちょっと黙れ。お前がうるさい。 「なにかこう、特徴とかって……」 「えー? 特徴? 男の子ってことしかわかんなーい。一瞬だったしー」 「そうですか。ありがとうございました」 「なに? 見たいの?」 「いえいえ。めっそうもない……」 「ふーん。なーんだ。つまんないのー」  彼女はそう言うと、教室を出て行ってしまった。  ああ、これと言った収穫なしかあ。  私はそう思ってガックリとうなだれた。  すると、ごんべえが鼻をふんと鳴らして言う。 【ああいう女子より、まだお前のほうがマシだな】  それは褒められているのか、それともけなされているのか。
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