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満開の紫陽花に彩られた中庭で、運良く空いていたベンチに座る。
梅雨の晴れ間は、太陽の光がありがたいどころかむしろ暑いくらいだ。
ふう、あとはお弁当を食べてもらうだけでミッション終了。
そんなことを考えていると、彼女が言った。
【なんだか随分とスペースが空いていませんか?】
見れば、私と田中先輩の間には大人の男性一人が入れるほどのスペースがある。
【もうちょっと近づいてくれません?】
「え? いや、それはちょっと」
私がそう答えると、田中先輩はきょとんした顔をした。
慌てて私は説明をする。
「ああ、えっと、三原先輩がですね、田中先輩にもっと近づきたいと言うのですよ」
「かまわないよ」
即答された。
【ですって! 近づいてくれません?】
三原先輩はうれしそうにそう聞いてくる。
えー。私は本当にただの無関係な人間なんですけどー。
代わりにお弁当を作ったんだから許してくださいよー。
そう反論をしようとすると。
【お願いします。ここで心残りがあると成仏できないかもしれませんよ?】
「わかりました」
私は三原先輩の言葉にあっさりと従い、それからもぞもぞと田中先輩に近づく。
それから田中先輩にバレないように、小さくため息。
これも、すべては、彼女の成仏のため。
「三原は、元気そう? あ、亡くなったのに元気そうって言うのも、変なんだけど」
田中先輩はそこまで言うとうつむいた。
【元気だよ、田中君! 私、生前は病弱で学校休みがちだったけど、幽霊になった途端にエネルギーわいてくるの!】
脳内にキンキンと響き渡る三原先輩の甲高い声。
そんなに元気なら、勝手に成仏してくれよ。
「元気そうですよ。今朝、私と一緒にお弁当もつくりましたし」
「へえ。じゃあ、驚いただろ。三原の料理、独創的だから」
田中先輩はそう言って笑うけれど。
物は言いようだな、と思った。
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