1.お弁当を食べましょう!

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 今日は放課後にコンビニへ寄って、カフェオレとお菓子でも買おうかな。  今朝から二人そろって両親は海外出張中だから、深夜までリビングでドラマ鑑賞会をしちゃおう。  魂を成仏させたのだから、それぐらいのご褒美はあってもいい。  頭の中で、今夜の『一人お疲れ様パーティー』の妄想をしつつ、急いで下駄箱からローファーを取り出そうとしたその瞬間。  突然、体が重くなる。  幼い頃から幽霊にとり憑かれてきたからこそ、わかる。 「……憑いたっぽい」  そう呟いてから、頭を左右に激しく振り、それからこう言い直す。 「ううん。これはきっと疲れ。そう、疲れがどっときただけ!」  自分に言い聞かせるように言うと、頭の中に、声が響いてくる。 【なんだよ! 成仏させてくれる人間って女子かよー】  ガッカリしたような声は、私ではない。  大人でもなく子どもでもない、中学生くらいの男の子の声が、頭の中に響いたのだ。  そこで私は確信する。  これは疲れなんかじゃなくて、憑かれ。  ……うまいこと言ったなんて思ってない。 【あれ? なんでこれ出られないんだ?!】  憑いた幽霊が戸惑っている。 「そりゃあ、一度、波長が合ってとり憑いた幽霊は、成仏するか別のとり憑く人間を見つけてそっちに移らない限りは、出入りができないらしいから」 【はあ?! なんだそれ! ってゆーか、俺はお前にとり憑いた覚えはねーよ!】 「事実、こうして私にとり憑いているわけだけど」 【俺はとり憑きたくてとり憑いたんじゃない! 出る方法を教えろ】 「教えろ?! なにその上からな言い方!」  その声が予想以上に大きくなってしまい、気づけば私は周囲の冷たい視線を浴びていた。  とり憑いた幽霊の声は私にしか聞こえない。  だから、はたからは『一人で怒ってるおかしな人』にしか見えないのだ。  私は下駄箱から逃げるように走り出す。 【どこ行くんだよ!】 「とりあえず私自身を落ち着かせるの!」  そう言ってたどり着いたのは、廊下の隅。  いつ来ても薄暗い休憩スペースだ。  私はカフェオレを買い、一口飲んでからため息をつく。 【なあ、お前は一体、なんなの?】 「人にとり憑いておいて、その態度はなによ? あんたから自己紹介でもしなさいよ」  私の言葉に幽霊が突然、口ごもる。  幽霊に『自己紹介』ってのも変か。  私はそう考えて言う。 「私は、天国玲子(あまくにれいこ)。ここの中学の一年生。幼い頃から幽霊にとり憑かれやすい体質で、色々な霊にとり憑かれて、その度に成仏を手伝ってきた」 【とり憑かれやすい体質のわりには、俺が近づいても見えてなかったみたいだけど】 「うん。だって、私には霊感ってやつはないから幽霊は見えないの。幽霊が近くにいても『なんか寒気がするかも』って思うぐらい」 【マジかよ。そんなの生きてた頃の俺だって感じそうなレベルだな】 「ああ、でも」  私はカフェオレを一口飲んで、続ける。 「幽霊が成仏して、私の体から離れてあの世へ行くまでの数秒くらいの間は、姿がようやく見えるよ」 【なんだその限定的な見え方】 「だから前に、ずっと男の子だと思って幽霊が、ハスキーボイスの僕っ子の女の子だったこともあったなあ。あれは驚いた」 【お前、妙に幽霊に慣れてるところが気味悪いな】 「人に憑いてるほうが気味悪いけどね」
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