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今日は放課後にコンビニへ寄って、カフェオレとお菓子でも買おうかな。
今朝から二人そろって両親は海外出張中だから、深夜までリビングでドラマ鑑賞会をしちゃおう。
魂を成仏させたのだから、それぐらいのご褒美はあってもいい。
頭の中で、今夜の『一人お疲れ様パーティー』の妄想をしつつ、急いで下駄箱からローファーを取り出そうとしたその瞬間。
突然、体が重くなる。
幼い頃から幽霊にとり憑かれてきたからこそ、わかる。
「……憑いたっぽい」
そう呟いてから、頭を左右に激しく振り、それからこう言い直す。
「ううん。これはきっと疲れ。そう、疲れがどっときただけ!」
自分に言い聞かせるように言うと、頭の中に、声が響いてくる。
【なんだよ! 成仏させてくれる人間って女子かよー】
ガッカリしたような声は、私ではない。
大人でもなく子どもでもない、中学生くらいの男の子の声が、頭の中に響いたのだ。
そこで私は確信する。
これは疲れなんかじゃなくて、憑かれ。
……うまいこと言ったなんて思ってない。
【あれ? なんでこれ出られないんだ?!】
憑いた幽霊が戸惑っている。
「そりゃあ、一度、波長が合ってとり憑いた幽霊は、成仏するか別のとり憑く人間を見つけてそっちに移らない限りは、出入りができないらしいから」
【はあ?! なんだそれ! ってゆーか、俺はお前にとり憑いた覚えはねーよ!】
「事実、こうして私にとり憑いているわけだけど」
【俺はとり憑きたくてとり憑いたんじゃない! 出る方法を教えろ】
「教えろ?! なにその上からな言い方!」
その声が予想以上に大きくなってしまい、気づけば私は周囲の冷たい視線を浴びていた。
とり憑いた幽霊の声は私にしか聞こえない。
だから、はたからは『一人で怒ってるおかしな人』にしか見えないのだ。
私は下駄箱から逃げるように走り出す。
【どこ行くんだよ!】
「とりあえず私自身を落ち着かせるの!」
そう言ってたどり着いたのは、廊下の隅。
いつ来ても薄暗い休憩スペースだ。
私はカフェオレを買い、一口飲んでからため息をつく。
【なあ、お前は一体、なんなの?】
「人にとり憑いておいて、その態度はなによ? あんたから自己紹介でもしなさいよ」
私の言葉に幽霊が突然、口ごもる。
幽霊に『自己紹介』ってのも変か。
私はそう考えて言う。
「私は、天国玲子。ここの中学の一年生。幼い頃から幽霊にとり憑かれやすい体質で、色々な霊にとり憑かれて、その度に成仏を手伝ってきた」
【とり憑かれやすい体質のわりには、俺が近づいても見えてなかったみたいだけど】
「うん。だって、私には霊感ってやつはないから幽霊は見えないの。幽霊が近くにいても『なんか寒気がするかも』って思うぐらい」
【マジかよ。そんなの生きてた頃の俺だって感じそうなレベルだな】
「ああ、でも」
私はカフェオレを一口飲んで、続ける。
「幽霊が成仏して、私の体から離れてあの世へ行くまでの数秒くらいの間は、姿がようやく見えるよ」
【なんだその限定的な見え方】
「だから前に、ずっと男の子だと思って幽霊が、ハスキーボイスの僕っ子の女の子だったこともあったなあ。あれは驚いた」
【お前、妙に幽霊に慣れてるところが気味悪いな】
「人に憑いてるほうが気味悪いけどね」
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