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【お前さー、好きでとり憑かれてんの? それともどM?】
「は? なんで? 好きでもどMでもないけど」
私が言うと、幽霊はやけに楽しそうに笑いだす。
【だってこの学校、幽霊かなり多いよ?】
「……それは、実は私も入学後に知ったのよ。昔はここは病院で、その名残りからここに幽霊が集まりやすいんでしょ。今でも心霊マニアの裏スポットらしいし」
私はそこまで一気に喋ると、大きな大きなため息を吐く。
事前にそれを知っていたら、両親に理由を説明して引っ越しできたかもしれない。
こんなに幽霊がうじゃうじゃいない中学じゃなく、もっと平和な中学で過ごせた可能性もある。
まあ、中学に幽霊がいなくても近くに墓地があったりすれば登下校中に憑かれるかもしれないんだけどね。
【死んだ直後にさまよってたら、親切な幽霊からこの学校にいる生徒が幽霊の心残りをなくす手伝いをしてくれる、って教えてくれた】
「やだ、噂になってるんだ……。別に親切心でやってるわけじゃないんだけど」
【俺はこんなひ弱そうな女子だとは思わなかったんだよ! その噂、嘘だろ?!】
「本当だよ。ってゆーか、成仏させるのって力技だと思ってたの? だっさーい」
私は大げさなくらいに、ぷっと吹き出して嫌な感じに笑ってみせる。
これで怒って『俺は別の奴に憑く!』とか言って、出ていかないかなあ。
男の幽霊って嫌なんだよね。
だって、とり憑いた霊は私の五感を共有することになる。
つまり、着替える時もトイレもお風呂も、ぜーんぶ丸見えなのだ。
だから男の幽霊は、とにかく最短で成仏させるか、『私には無理』と全拒否で体から出ていってもらうとか。
そういう方法で今までやってきたのだ。
全拒否で出ていかせるのはかなり難しいけど、私の怒りの波長と幽霊の出ていく気持ちが強くなればできる……というかできたこともある。
でも、結果的にその幽霊は戻ってきたけれど。
こいつも、出ていかないかなあ。
そして二度と戻って来ないでほしい。
せっかく、今日のお昼に成仏させたばかりなのに……。
そんなことを考えて、ふと気づく。
あれ? なんか大人しい? 出ていった?
いや、でも体が軽くならないな。
だけど、出ていこうと頑張ってるとか?
そんな期待をした時。
【じゃあ、お前に頼むわ】
「は? なにを?」
【成仏させるのは力技じゃないんだろ? お前でもできるんだろ?】
「いや、実はね、力技で、私のか弱い力じゃ何もできないんだよー」
私はさらりと嘘をついてみるが、頭の中に響く声はやけに穏やか。
【俺、家族にお別れを言いたいんだ。いや、天国に行く前に、顔だけでも見たいんだ……】
こいつ、聞いてねえな。
「じゃあ、君の家、行こうよー。今すぐ行こう!」
【それが……記憶がない】
「え? 死んだ時の?」
【死んだ時を含めて家族の記憶も、自分の名前も年齢も思い出せない】
うっわ。なにそれ最悪じゃん。
時間がかかりそうだなあ……。
【だけど、家族がいたとは思うんだ。だから、最後に自分のことを思い出して、家族に別れを言いたい。それが俺の心残り】
「でも、私が力になれるかどうか」
【頼れるのはお前しかいないんだよ……。頼む】
真剣な声の後、幽霊がこう付け加えた。
【お前にとり憑いてる状態だから見えないと思うけど、俺、土下座してるからな?】
「いや、その説明いらないから。むしろ嘘くさいから」
私はそう言うと、しばらく考えて、それから残りのカフェオレを一気に飲み干す。
「面倒だけど、しょーがないか。わかった。やるよ」
【おう! 俺の手足となってしっかり働けよ!】
「四十秒で成仏させてやる……」
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