1.お弁当を食べましょう!

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 そうは言っても、四十秒で成仏させたことなんて今までないし、しかもこの幽霊は生前の記憶がない。  四十秒どころか、四ヶ月はかかりそうな案件だよなあ。  いや、でも、さすがに四ヶ月もかけたくないな。  そんなに長い間、こんな偉そうな男子と過ごす期間だなんて考えられない!  絶対に最短で成仏させてやる。  伊達に幽霊を成仏させてきたわけじゃないんだからね。  記憶ぐらいささっと取り戻してやるよ!  私は鼻息荒く、小走りで家に帰った。  そして家に帰えると着替えもせずに、リビングでスマホをいじる。  スマホで最近のこの辺りの事件や事故のニュースを見れば、この幽霊のことが何かわかるかもしれない。  そんな期待を抱いてニュースをチェックするものの、中学生が死亡した事故や事件はここ最近はなかった。   一応、小学生や高校生の可能性も考えて調べてみたけど、やっぱりない。 「平和だなあ。いや、いいことなんだけど」 【ってゆーか、悠長にスマホでニュースチェックなの? 儀式とかするんじゃないの?】 「儀式ってなによ」 【除霊とか、なんかあるじゃん?】 「それで出ていくんならもうやってる」  私はそれだけ言うと、スマホをテーブルの上に置いて、それからキッチンへ。  冷蔵からアイスコーヒーと牛乳を取り出し、グラスに注ぐ。 「儀式とか、除霊みたいなもので無理に幽霊を体の外に出すってのは、一時的なものなのよ」 【へーえ。でも、一時的でもいいんじゃねーの?】 「恨みを抱かれつつ、また私に憑いてくるのに?」  私の言葉に【お前も苦労してんだな】と幽霊に言われた。  シンクの前に立ったまま、カフェオレを飲んでいると、幽霊が聞いてくる。 【それでよく危ない目に遭わなかったよな。幽霊に体乗っ取られるとかさ】 「そういうのは今まではないね。人間の体を乗っ取る力のある幽霊とか、そうそういないよ」 【じゃあ、なんでそんなに俺を急いで成仏させたがってんの? 男だから?】 「それもあるけど……」  私はため息をついて、それから続ける。 「静かな時間が過ごせないのと、あと食欲旺盛になるから」 【食欲旺盛ってどれくらい?】 「朝からカツ丼二杯にお昼はパスタとパンとピザ、おやつにシュークリーム二個、ショートケーキとチーズケーキ一切れずつ、晩ご飯はカレーライス大盛りにカップラーメン」 【もしかして……】 「それが昨日の私の一日で食べたメニュー。昨日も憑かれてたから」 【食い過ぎだろ!】  「だから憑かれるとエネルギーつかうのよ。それに私だって食べたくて食べてるわけじゃないの!」  私はそう叫んで、なんとなく頭上を睨みつける。 【そのわりにはお前、痩せてるよな】 「憑かれてる間はどれだけ食べても太らないから」 【へー。それはいいな。じゃあ、どんどん食べればいいじゃん】 「嫌だよ。周囲にジロジロ見れられるし、授業中にお腹鳴るし、お父さんとお母さんには余計な食費をかけさせてるし」 【まあ、それはわからんでもないが】 「両親が私のこの憑かれやすい体質に理解があるから、二人とも出張になると私の食費は多めに置いていってくれるし、普段から憑かれた時用のお金もくれてるのよ」  私はそう言って、冷蔵庫の中のサンドイッチやシュークリームに視線を向け、それに手を伸ばしかけてやめる。  こいつにバクバク食べてるとこ、見られるのなんか嫌だな。 【両親には感謝しないとな】  食べたい、でも、こいつの前で食べると色々とからかわれそう、そんな葛藤をしていたので幽霊の言葉なんぞ聞いちゃいなかった。
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