3.トイレのうめき声を確認しましょう!

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 やっぱり断れない私は、空腹のままで美人先輩――飯田(いいだ)先輩と屋上へ向かう。  誰にも話を聞かれたくないそうだ。  屋上には生徒は誰もおらず、飯田先輩は模型のような街並みを見下ろしながら口を開く。 「さっきの……御手洗(みたらい)君を追いかけて行った少し派手な雰囲気だけどかわいい一年生女子は、あなたのお友達?」  穏やかだけど、どこか敵意が含まれているような口調に私は思わず首を振る。 「えっと、友達ではないです」 「そう。あの子、御手洗君に告白するのかしら。告白しても、彼女いるんだけどね」 「そうなんですか」 「私なんだけどね」 【なんなんだよ。ただののろけかよ。くだらねーな。帰ろーぜー】  飯田先輩はなぜか寂しそうに微笑んで、それから再びフェンスの向こうに視線を向けた。  それから彼女はぽつりと呟く。 「私、最低なことをしてしまったの……」 「どういうことですか?」 「御手洗君と三日前が付き合い初日だったの」 「そうなんですか」 「それで、私、お弁当を作っていくって約束したんだけど、作らなかったの」  飯田先輩はこう続ける。 「正確には作れなかったの。だって、私、料理なんかしたことがなくて」  飯田先輩は恥ずかしそうに笑い、それからさらに続ける。 「でも、見栄を張ってしまったの。だからお弁当は持って行ったの」 「それは、どういう意味ですか?」 【なんなんだ。謎解きみたいな喋り方だな】 「母が作ってくれたお弁当を、私が作ったのって言っちゃったの」  飯田先輩は、そう言って俯いた。 【あー。ないわー。そういう女子、俺ダメだわー!】  おめえに聞いてねーよ。  そもそもごんべえは心が狭い。  だけど、さすがにここでそれを言うと飯田先輩にも聞こえるのでやめておいた。 「私に相談というのは、そのことを御手洗先輩に打ち明けたいということですか?」 「そうなんだけど、嫌われちゃいそうで……」 「そんなことで嫌いませんよ!」 「だって、昨日も今日も、お弁当、母の手作りを私のだって言ったのよ。もう三回も嘘ついてる」 「数は関係ありません」 【三回も嘘ついてんのかよ! もう常習犯じゃねえかよ!】 「ごんべえは黙れ」  思わずそう言ってしまい、私はハッとする。  こほんと咳払いをしてから、こう言い直す。 「そんなことで嫌いになりませんよ。ちゃんと、言いましょう」 「でも、おいしいおいしいって食べてくれていたのに」 「それとも、このことは黙っておいて、明日から飯田先輩がお弁当をつくるとか」  私の提案に、飯田先輩は少しだけ考えてから首を横に振る。 「ううん。ちゃんと先に謝るわ。このモヤモヤを抱えたまま彼と付き合いたくない」  そう言った飯田先輩の横顔はとてもきれいで、透き通って見えた。
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