小野の凶行

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小野の凶行

「いらっしゃい…キャッ?!」 ケーキを作っていた俺のところまで雅の小さな悲鳴が聞こえてきた。 他の客達や従業員と共に視線を店の出入り口付近ヘやる。 と、そこには…。 「店長!店長を出せ!」 「キャー!」 他の客が悲鳴を上げた。 が、雅の首すじに刃物を当てた小野が邪魔して外に出られねー。 天災は忘れた頃にやって来るとは、この事か。 雅がトレーを床に落とした音が、一気に不穏になった店内に響く。 「店長は俺だが?」 俺はケーキ作りを中断して、ホールへ出た。 「く、来るな。それ以上近付いたら、人質の命はないぞ!」 「お父さん…」 雅はすがる様な顔をして俺を見ている。 店長を出せと言われたから、ホールへ出たんだが、来るなって、どっちなんだよ。 「あのなあ。あんた、雅の事が好きなんだろうが。なのに、こんな目に遭わせるなんて逆に嫌われるぞ」 俺は小野を刺激しない様に優しめに説得した。 小野は俺に気を取られて、店頭の外から目撃者がいる事に気付いていない。 「う、うるさい!お前のせいで、お前さえ邪魔しなければ、ミヤビちゃんは今頃、僕の彼女になっていたんだ!」 どこからそんな根拠のない自信が出るんだか。 ある意味、感心する。 だが、小野が今、してることは許されない事だ。 「あんたの狙いは充分解ってる。俺が人質になるから、客と従業員達を解放しろ。勿論、雅もだ」 俺は少しずつ慎重に、雅を人質に取った小野に接近する。 「い、嫌だ…。お前は人質にするには強そうだからな。ミヤビちゃんと交際させてくれるなら、客と従業員は解放する。でも、でも、みやびちゃんは僕のだ!」 「そんな事出来ると思うか?俺は、雅の親父だ。あんた、ご勝手な妄想抱いている様だが、雅の気持ちも考えたこと有るのか?」 「…ミヤビちゃん、僕のこと好きだよね?いつも笑い掛けてくれたじゃないか…」 「えっ…だって、それは…」 困惑する雅。 「僕のこと好きだからだよね?!」 「ざけんじゃねー!」 雅の営業スマイルを自分への好意と勝手に思い込む小野に俺はとうとうキレて椅子を蹴り飛ばした。 一瞬、固まる小野。 俺はその隙を見逃さなかった。 「オラァ!」 一気に間合いを詰めると、小野の持っていた刃物を叩き落とす。 と、ほぼ同時に雅の身体を、もう片方の手で小野から引き離した。 「痛い痛い!暴力反対!」 そう言いながらも、落ちた刃物を拾おうとする小野。 「お父さん!」 「雅、後ろへ下がってろ」 と言いながら俺は小野の前に立ち塞がる。
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