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将来の夢
千夜組の跡取りとして産まれた俺には無かった将来の夢。
だが、妻や右腕の組員、友人達のお陰で今の俺がいる。
そう…パティシエになった今の俺が。
3月。
妻の香澄が勤める男子校と、娘の雅が通う幼稚園の、卒業式と卒園式が重なった。
今日ばかりは店を臨時休業にして、母親である他の保護者達に混ざって幼稚園へ向かう。
「ねえ、見て!何て格好良い方なんでしょう!」
「奥さんを亡くされた方なのかしら?」
「お子さんもさぞ可愛い子なんでしょうね」
おいおい。
妻の香澄を勝手に殺すな。
まあ娘の雅が可愛いのは否定はしないが。
卒園式も無事に終了して友達や先生と別れを惜しんでいた雅だが、俺の姿を見つけると駆け寄ってくる。
「パパー!しょうじょうとアルバムもらったー」
「そりゃ良かったな…っと」
俺は賞状とアルバムを両脇に抱えてる雅の小さい身体を抱っこする。
雅には重そうだが、俺が抱えてる分には何てことはない。
友人達と手を振り合う雅に、担任と思われる若い女が俺に向かって頭を下げる。
俺も1礼すると、他の親子連れと共に、3年間世話になった幼稚園を後にした。
夕食後。
香澄が風呂に入っている間、食器洗いを終えた俺の元に、卒園アルバムを抱えた雅が嬉々としてやって来る。
「パパー。アルバムみてみてー」
本当は明日のケーキの仕込みをしたいところだが、香澄が風呂から上がるまでまだ雅をリビングに1人にさせる訳にはいかねー。
それに店にかまけて殆ど構ってやれねー時があったから、俺も雅がどんな幼稚園生活を送っていたのか興味が有った。
「わーったよ。どれどれ…」
ソファーに座り、雅を膝の上に乗せると俺は雅にも見えるようにアルバムを開く。
「これが、えんそくのときのしゃしんでー、これが、おゆうぎかいのときのしゃしんでー」
見れば大体、何の写真か解るが、雅は俺がページを開くたび、写真を指差して言った。
写真の雅の表情はどれも笑顔だ。
きっと楽しい時間を過ごすことが出来たんだろ。
俺は安心して最後のページを開く。
と、そこには写真ではなく、大きくなったら何になりたいかという、園児達が書いたページになっていた。
かんごしさん、ひこうきのうんてんしゅ、およめさん、…色々あるな。
「パパー。みやびのは、ここだよー」
雅が指差したところには。
『ケーキやさん』
と書かれている。
「みやび、おおきくなったら、パパといっしょにおみせやるのー」
雅はずっと俺の事見てたんだな。
俺は思わず雅を抱き締めた。
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