シフォンケーキ

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

シフォンケーキ

流石に全部は無理だろうが、それで無駄になる分が減らせれば、それに越した事はないだろう。 「ああ、いーぜ。3人でケーキの会食するか」 「うん!」 雅はようやく久々の笑みを浮かべた。 「貴方、雅…怪我は無い?」 香澄が心配そうに店へやって来た。 「無いから目撃者がパトカーと呼んだ救急車に誰も乗らなかったんだろうが」 「私…何も出来なくて…」 香澄は俺に寄り掛かるようにして、安堵の涙を流す。 「お父さん、お母さんが…」 雅が心配そうに言った。 「お母さん、今、お父さんと家族3人でケーキの会食しようって話していたところだったの」 「えっ!本当?!」 単純に目を輝かせる香澄を見てると俺はつい茶化したくなった。 「嘘だよ」 「えっ…そんな…」 「もう!お父さん、お母さんで遊ばないの!お母さんもお父さんの冗談位、良い加減通じる様にならないと」 付き合い長い割には、香澄は未だに冗談が通じねー。 その点では雅の方が余程、俺と香澄の事を解っている。 「何だ…そうだったのね。せっかくだから此処で食べましょうか?」 香澄が客が座る椅子に座って言った。 そして、閉店後の店の中で俺達家族はケーキを会食する。 時間はあっという間に過ぎていった。 後日の開店前。 店の掃除を終えた雅が、俺の見てる前でシフォンケーキ作りの練習をしている。 「違う。メレンゲ入れた後の混ぜ方は、数字の1を書く様に…」 俺は雅の直ぐ後ろから奴に手取り足取り教えていた。 「気泡、潰しすぎるなよ。陥没する原因になる」 「うん。今日はお客様に美味しいって言ってもらえるかなぁ」 予熱し終わったところで、オーブンにシフォンケーキの生地が入ったドーナツ型の型をそっと入れながら雅が不安そうに言う。 「それはケーキの出来次第だな」 オーブンのボタンを押した雅のケーキは、数日前からメニュー表に取り入れていた。 やがてシフォンケーキが出来上がった頃、従業員達がやって来て、俺は今日も店を開店する。 店の前には既に常連客が並んでた。 「いらっしゃいませ!2名様ですね。こちらへどうぞ!」 雅が常連の女2人を席に案内する。 「今日も雅ちゃんのシフォンケーキにしようかねぇ」 「私も」 メニュー表を見ずに2人は雅がシフォンケーキを作っている事を知っていて、注文した。 「あ、はい!オーダー、シフォンケーキ、two!」 俺は焼きたてのシフォンケーキを2切れ皿に乗せる。 それを常連客2人に運ぶ雅。 「「頂きます」」 2人は、ほぼ同時にそう言う。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!